その7) 飛び込み
19歳の夏だったろうか
友人に誘われ ある川にある滝へ 飛び込みをやりにいった。
高さは電柱のてっぺんぐらいまでの高さ(8.5m)はあっただろうか。
豊島園の飛び込み台が確か5mだから それよりも ちと高い。
学校で言えば3階の高さぐらいだろうか。
そして 少し途中に岩肌がでっぱっているので
助走をつけて 飛び込まないと
岩肌にクラッシュして ザクロになるのは
誰の目にも明らかであった。
そして 滝つぼも全部が深いわけでもなく
浅瀬に飛んでしまうと
これまた あなたの知らない世界逝き確定であった。
しかし そこは男の子。
自前の度胸を示さなければならない。
しかし うまく飛び込んでも
裸足だと足が痛いので 俺はボロ靴を履いて
飛び込んでいた。
水面がとにかく固いのだ。
腹打ちしようものなら 内臓破裂確定である。
実際 20〜25mだかの高さから
水面に飛び込むと
コンクリートと同じ固さなんだそうだ。
横浜ベイブリッジから 飛び込んだら
そんなもんになるのかな。
飛び込む瞬間は友人がやっているのを見ると
大して長く感じないのだが
自分が実際にやってみると
全然時間感覚が違う。
滞空時間がとにかく長い。
助走をつけるため
走り幅跳び状態で 空中を走るような形で着水となる。
それから 多分 4〜5m水中に沈みこむ形となる。
俺は息を止める瞬間がよくわからなくて
走り抜けて 空中へ飛んだ瞬間から 息を止めていたのだが
水中に入ってから 水面まで浮き上がるのに
物凄い苦しかった記憶がある。
そして トランクスタイプの水着を履いていたのだが
水中に入った瞬間 それは鬼のように股へと食い込むのである・・。
それが また痛い・・。(泣
しかし 俺は面白くて足から何回か飛び込んでいたのだが
どうしても頭からは飛び込めなかったのである。
空中で綺麗なフォームを保つ自信がなくて
内臓破裂確定率99%だったからだ。
この滝へ案内してくれた友人がその前の年に
他の友人達とここへきて
そのうちの一人は
勢いをつけて 頭から飛び込んだり
はたまた 勢いつけて ひねりを入れつつ
バック宙をしてみたそうである。
しかし バック宙の際は 後頭部を水面に打ちつけ
気絶したため 他の友人が救助したそうである。
そんな話を聞いていたため
俺は悔しくなり
俺も頭から やるしかねぇ!!
と気合を入れるものの
助走をつけるのだが どうしてもフォームがイメージできず
飛ぶ前に 助走を辞めることを繰り返していた。
友人に
ためらいができると 間違いなく死ぬから辞めたほうがいい
と 止められ 俺は悔しくて その場にしゃがみこんで
何度も自分の中で葛藤した。
そして
俺は敗北した・・・。
勇気も根性もたりねぇ・・・。
どうしようもないほどに 自己嫌悪に陥った。
なんで こんなもんも できねぇんだ 俺は・・。
せめて その場から落ちるだけならば・・。
人工のプールのように 深さもはっきりしてれば・・。
などと 言い訳じみたことまで 頭をよぎり
それがまた自分の不甲斐なさを印象付けた。
数時間はそんなことを繰り返していただろうか。
俺は結局 頭から飛び込むことはできず
悔しい思いとともに川をあとにした。
来年も絶対ここにきて 俺は頭から行くぞ!!
帰りの車で そう誓った。
そして 二十歳になった夏 俺は再びそこへ訪れた。
よし やるぞ!!
俺は絶対に死んでも頭から飛び込んでやるぞ
と 気合一番で水着に着替え 滝へとむかった。
あれ??
なにか様子が変だ??
滝の周りに
黄色と黒の
ロープが張ってあるではないか!!
え??なにこれ??
俺はあとから来た友人達と顔を見合わせた。
あ! あれ見ろよ Weif!!
え?なになに??
なんと 滝壺には
瓶に入った花と
供え物が・・
誰もが悟った・・。
それが何を意味しているのか・・。
そして滝壺の色が変なので
俺達は確認のため 滝壺へと下りた。
滝壺には砂利が敷き詰められており
とても飛び込んでも十分な深さは
もはやなかった・・。
これ以上 馬鹿な死者を増やさないために
処置されたことだったのであろう。
俺は愕然となって その場に立ち尽くした・・。
なんで あの時あの場所で勝負しきれなかったのかと・・。
しかし冷静に考えれば 俺がこうなっていたのかも知れない。
しかし 命を軽んじてはいけないが
死に場所を失った男ほど 惨めなものはない。
なんで俺は挑戦すべき時に 挑戦できなかったのだろう
と どこまでも自分に腹が立った・・・。
俺はこの悔しさを忘れない。
無謀でも やらなければ
自分が納得できないことが
男には多々あるんだと 心底実感した。
帰りの男達の背中はどこまでも悲しかった。
華を咲かそう