その5) 楽しいすいか割り
夏の風物詩
夏のお手軽イベントである
すいか割り。
その当時 俺は二十歳の夏だったろうか
専門学校の奴らと一緒にスイカ割りしようぜって話が浮上。
どこでやるって 話になり
決まった場所。
それは 日本一高い場所・・
富士山山頂!!
もちろん 俺は冗談で言ったのだが
それは なぜか現実となり
そうなった場合
スイカとバットを背負って登るのは
もちろん 言いだしっぺである 俺・・・
そして 夏休みのある日
それは実行された。
夜 富士五合目まで車であがる。
さすが デカイ星を肉眼で お手軽に見ることができる場所。
なんとも 綺麗な星々であり 俺たちの出発を祝福しているようだ。
それと同時に誰もが なんでこんなむさ苦しい連中と一緒にきてるんだよ!!
と悲しくなったのは 言うまでもない。
メンバーが誰がいたか 人数が結構いたので
あまり 覚えていないのだが
べっち 肉 カジ パキラ ふぉんだ さとやん ぼた あたりだったと思う。
あとドゥーハン コバがいたっけかなぁ??
まぁ 面子が誰だったかはどうでもいいとして
実際 肉は元ワンダーフォーゲル部だと言うので
その秘めたる能力に期待していたのだが
ニックネーム通り 肉であった・・・。
ケンシロウの
「北斗神拳の前では貴様はただの肉の塊にすぎん」
と言うセリフを誰もが思い出したことであろう。
実際 元ワンゲルなので 装備だけは
いっちょ前に揃えて持参してきていたのだが
出だしは良かったものの
途中であっけなく その自分の荷物の重みで
玉砕。
なにやってやがんだ てめぇという話になり
しかし ここはまぁ 仲間だっつうことで
皆で分担して彼の荷物を持つこととなった。
俺は 自分の装備である スイカと 木のバットの他に
肉の寝袋を持ってやることになった。
なにしろ この時期の富士登山はピークで
他の登山客と一緒に行列のまま 山頂まで登るような形であった。
実際 前が詰まっているため自分のペースで登れない。
これは きつかった。
山頂付近に近づくと 徐々に気温が低くなる。
皆に防寒着着用の指示を出す。
しかし ここで パキラが死亡。
パキラは肉の水筒を持っていたのだが
肉の水筒が漏れていて 防寒着がびしょびしょ。
Tシャツのまま 登山続行と あいなった。
誰もが水筒を持たなくて良かったぜと思いつつ
彼に同情。
小さな親切 大きなお世話だと言わんばかりに
恩を仇で返された状態となった。
結局 我々は混雑により
山頂には 進入できなかった。
山頂前の広めな場所で 朝食をとり
仮眠をとった。
若干一名
寒くて眠れねぇ〜〜〜〜
と叫んでた男がいたが
皆 気にせずに寝た。
元凶である 肉もあっさり寝ていたような気がする・・。
そして 明るくなったので 皆 次々と 目を覚ます。
そして そこに広がる光景に誰もが言葉を失い
息を呑んだ。
雲海から 昇る 御来光であった。
こんなに綺麗な光景を俺は生まれてこのかた
見たことがない。
そして この光景をバックにここまで絵にならない男達も
見たことがなかった。
一人がぼそっと言った。
ここは天国か?
誰もが お前は間違いなく いけねぇよと思いつつも
その言葉に納得し その壮大な御来光を 無言で眺め続けた。
実際 富士から見下ろすそれは それだけの価値があった。
そして 山頂へ。
今日のメインイベントスタート。
おもむろに ザックからすいかを取り出す。(フフフ
おぉお〜〜〜〜〜〜
と言う 歓声とともに人だかりができた。
まわりの登山客もやっと 俺がバットを持っている意味が
分かったらしい。
はっきり言って こんなもんを杖代わりにして
登山していたら
ただの馬鹿か
バットは友達だと言い張る野球狂だ。
こうして 沢山の祝福の中
俺たちは とことん すいかと愛し合った。
手で叩くといい音がする。
そして ダチへ向かって パス!!
こうして 山頂にて すいかを放り合うという
変な光景がそこにあった。
もちろん 落として割ろうものなら
ここにいるダチどもの その手と足から繰り出されるであろう
洗礼を浴びなければならない。
俺たちはスクールウォーズごっこを
十分堪能したあと それを設置。
皆 順番に目隠しをして
バットを振り回す。
もちろん見学客を襲うという サービス精神も
忘れてはいけない。
そして 見事 俺はそれをまっぷたつにしてみせた。
おぉお ブラボー ハラショーという声が 周りからあがる。
そして すいかにかぶりつく。
もっとも すいかをうまそうに食う男大会!が行われる。
うまいぞ!うまいぞ〜〜〜〜!
うますぎる〜〜〜〜〜
その瞬間 山頂はたくさんの味皇たちの叫び声で埋め尽くされた。
山頂で食う すいかは とにかく美味であった。
そして ここには何人かの米兵が訓練がてら
登山していて
ヘイ! 腕相撲しようぜ ストロングボーイ などと 抜かしてきた。
そして 仲間内から代表者を募り
富士山山頂史上初かもしれない
スイカ割りに加え
こちらも史上初かもしれない
腕相撲 日米対決が行われた。
そして 文字通り頂上決戦であった。
うちらで一番強い ふぉんだが代表になり
ふんばったが びくともしない。
米兵の腕は まったく動かない。
がんばれと 皆で激励の声援を贈る。
そして 激戦の末
ふぉんだは見事 太平洋戦争の
借りを返した。
もちろん 米兵のあんちゃんが
わざと負けてくれたのは
誰の目から見ても明らかであった。
しばし まったりしたあと
俺たちは下山することになった。
登りより 下りのほうが 俺はきついから
嫌いだ。
長時間の下りになると 膝はガクガクになり
膝が笑い出すからだ。
そして 俺たちはまた ある光景を目にする。
便所から垂れ流しの
汚物とティッシュなどであった。
これが富士山が世界遺産になれない理由だなと
誰もが思ったであろう。
そんなこんなで 下山。
帰りは うまい ほうとうを食って
疲れを癒し 帰途についた。
行く前は なんで山頂ですいか割りせにゃあかんのだ?
と思っていたのだが
俺は行って良かったと 思った。
富士山へ登ったことのない方へ
是非一度 登って御来光を見てみることを
勧めます。
あなたの胸を打つ瞬間と光景が
そこに待っていることでしょう。
華を咲かそう