その3) 楽しいザリガニ釣り
小学校のすぐ前に川があったのだが
そこで よくザリガニを取った。
そんな 場所に川があったために
デカイ ザリガニがそこにいようものなら
少年たちの熱き好奇心のため
通学や下校の妨げになるのは
必然であった。
少年にとって 学校 < ザリガニであった。
しかし この川
ある冬の朝
酔っ払いのおっさんが
泥酔して 誤って落ちて
ぷか〜んと 浮いていた。
もちろん すでに死んでいたのだが
うわ なんか おっさんが浮いてる!!
と 子供ながらに 驚いた。
小学校の側の高校に通うお兄さんが
発見し 警察に連絡していた。
友人と このおっさん
きっと天国で一杯ザリガニ取ってるね
と 話し合ったものだ。
家の近所のたんぼでも よく取った。
最近はもう 黒い日本ザリガニを
見かけることもなくなってしまった。
今思えば 取れる数の少なさゆえ
絶滅に瀕していたのだと思われる。
しかし やはりデカイザリガニに
心奪われていた。
でっかくて真っ赤な アメリカザリガニ。
通称 マッカチン と呼ばれていた。
最初は網で捕獲していた。
網で取る際は ザリガニは後方へ
勢い良く逃げるため
それを見計らって
後方から網を仕掛けなければならない。
しかし よく その6本の足と
ハサミが網に絡まるため
ザリガニを網で捕獲した際
網から取り出すのに
よく 網を破いてしまい
ダメにしたものだ。
そして ザリガニ釣りに
移行していった。
長い竹竿か篠竿を
そのヤブの所有者に
「お前ら またそこでのこぎり持って
何やってんだぁ〜〜!!」
「やべ またじじい きたぞ
逃げろ〜〜〜!!」
と 追いかけられながら
切り出してきたもんだ。
しかし 後に問題となったため
網の棒のケツを使って竿にすることにした。
竿に凧糸をつけ
もちろん餌は イカゲソ。
吸盤がついているため
ザリガニもつかみやすい。
しかし 魚釣りのように
釣り針ではないので
合わせは必要ない。
ザリガニがそのハサミでもって
イカゲソをつかみ
口へ運ぼうとする。
そのとき ゆっくりと
引き上げるのだ。
これで 小1か小2の夏に
兄と従兄弟と共に
600匹近い
ザリガニを捕獲し
夏祭りで売った。
赤ん坊用のバスタブに
そいつを突っ込んだのだが
600匹がうごめきひしめきあい
壮大荘厳な 共食いを始め
なんとも マイルドな匂いをかもし出していた。
その素敵な異臭ゆえに おかんが悲鳴をあげていたことは
言うまでもない。
下駄箱を横に倒して
穴の上に点数のラベルを貼り付け
ボールを投げさせる。
一回100円で
ボールは3回投げていいことになっており
取った点数によって
ザリガニを配布。
そんなわけで 俺の夏の絵日記には
真っ赤なザリガニがよく登場した。
しかし 小学校高学年にもなると
俺は予定通り悪ガキになっており
ザリガニ釣りのあとに あることをしていた。
その行為を おばぁちゃんに見つかり
この子はなんて 罰当たりな子だよ
と嘆かせたものだ。
そう それは
賽銭釣り
ザリガニに凧糸をつけ
賽銭箱へ垂らす。
友人と
「もし これ取れたら
俺たち うまい棒とよっちゃんいか
腹いっぱい食えるよな?」
「あたりめぇだべ!!
んでもって チェリオで一杯やんべ」
「うん」
「つうかさぁ これさぁ
日本中の神社でやったら
俺たち大金持ちだぜ」
「だよなぁ 駄菓子屋まるごと
買えちゃうよなぁ」
「うん そんでハックみてぇな
家作ってよぉ もう学校いかなくていいべ」
「え? もう行かなくていいの?」
「当たり前だろ 日本一の金持ちに
なれたなら 大臣も操れるべ」
「へぇ そうなんだ」
と ヨダレを垂らしながら
夢を膨らませていた。
少年たちの夢を
ザリガニは背負い
いざ 賽銭箱の中へ。
しかし ザリガニは小銭がつかめなかった。
ターゲットを変えてお札を狙うのだが
なかなか 取れない。
一緒にやっていた友人が
「これよぉ 賽銭箱に水いれたほうが
ザリガニもがんばんじゃね??」
「おお お前 あったまいいなぁ!」
俺もそれに納得。
早速 境内にある
手を清めたりする水を
バケツがなかったので
二人でランドセルに汲み
賽銭箱の中へ
ドジャ〜〜〜〜。
これには 神社に祭られている神様も
この少年たちは一体 なにやってんだ?
と 呆れ果てていたであろう。
ザリガニが 凧糸から
すっぽぬけたりするため
結局 10匹ぐらいの
ザリガニが 供物として
神様に捧げられた。
しかし あいかわらず お札は一枚も取れない。
日が暮れ始めた。
もう これ駄目じゃね?
見たいTV番組もあったし
友達と相談した結果
これは もう無理だと言うことになり
家路についた。
いまなお 賽銭箱に投下された
熱きザリガニ達は
少年たちの大きな野望を叶えるために
うごめいているかもしれない。
華を咲かそう