その2) 雪山登山


高校2年から3年になる
春休み
少年(俺ことWeif)は某団体の
毎年恒例行事である
冬の北八ヶ岳登山に向かった。

その年は中々雪深く
大変であった。

そして その年は 本隊とは異なるプログラムを計画し
アタックする年でもあった。



メンバーは 同学年である はなまる
そして2個上の先輩である コサック
そして5個上の先輩(当時 日○大山岳部部長)である ウータン
彼は登山経験豊富なため 皆絶対的な信頼を寄せていた。

二日目までは 本隊と共に行動
三日目からは 別行動となった。


装備は肩になかなかどうして
ずっしりくる30kgオーバー

中身は 簡易食料 水 テント
輪かんじき アイゼン(氷上を歩行する際 靴に装着する爪)
ザイル ピッケル(滑落停止用の杖)雨具 ウィスキー コッヘル(鍋)
ブス(簡易コンロ) ナイフ 新聞紙 電池 無線

などなどである。

 
雪が深く思うように進めない。。。
輪かん装着時でも 腰まで埋まってしまう。。
たった100m進むのでさぇ
数時間かかることもある。
雨具も常に着用しているので
外から濡れるというよりは
中からの汗で濡れる。

サウナ状態だ。



きつい。。。




そんな状況の中
ウータンが明るい声で叫ぶ

「よし お前ラッセル行け!!」

「うわぁ ラッセル 俺かよ・・・」

と心の中でつぶやく。
声を出して言うと白い雪が赤に染まるからだ。

*:ラッセルとは先頭を歩き
後続者のために雪面を歩きやすく
踏み固めることである。
従来の登山道は雪深く埋もれてしまっているため
こうして登っていくのである。


ちなみに しんどい作業であることに相違ない。

吹雪く中 なんとかその日の目的地に到着
予定より少し遅れたが
設営に入る。

晩飯は冷凍ピラフをフライパンで炒めることになっていたが
油を忘れて おこげに変更。
俺とはなまるで罪のなすりつけあいをして
先輩達の怒りをかったことは 言うまでもない。

夜はかなり 冷え込み
ポリタンクに沸かした湯を入れ
湯タンポにした。

軽くウィスキーをあおり
体の血行が良くなり あったまったところで
その日は就寝。







翌日。
「ふぁ〜〜〜」
と伸びをしながら
テントの入り口を開けると










外は猛吹雪。。。





もう一度眠い目をこすって
入り口を開ける。









外はやっぱり猛吹雪。。。








何度繰り返してもやっぱり猛吹雪。。。


はなまると俺とでしばし放心状態
閉めて二度寝したかったことは言うまでもない。

まず 本隊との無線連絡を試みる。
本日 本隊と合流する手はずになっているからだ。
しかし 無線の電池は冷え切ってしまい
この猛吹雪のため電波がのらず 無線がまったく
役に立たない状況となった。

下山か? このまま登山続行か?

どう行動しているか分からない本隊と合流できるかが問題であった。
先輩と相談し ごく普通にGOサインが出た。

「え? GOサイン? 普通に下山じゃないの??」
「脳みそタルタルソースだよ!! この人達・・・」

と心の中で思ったのは言うまでもない。

正直 こっから先は天国への階段を登るようなものである。
悪天候により 視界は真っ白で
3メートル離れると
もう前を歩く者が見えないありさまである。


ウータンが叫ぶ。

「よし Weif 先頭行け!!」

「やっぱ 俺なんかよ・・・・」

と心の中でつぶやく。
声を出して言うと白が赤に染まるからだ。


まったくもって 方向が分からない。
標識関係も全て雪に埋もれてしまっている。
空も地面も真っ白なので高低も分からない。
まるで真っ白な空間に浮かんでいるようだ。
かろうじて 標識の頭が出ているものもあったが
真横に向かってツララができている。

「おいおい!!つらら 横向いてまんねん!!」

と思わず標識につっこみ入れてみたが
皆極度の緊張状態であったため
もちろん笑いは生じない。

全員の殺気立った死線に釘付けとあいなった。

皆も軽い凍傷まじりの顔で
鼻水がつららになってたりと
つっこみどころ満載だったのだが
実際それどころでは なかった。



なんとか 尾根まで出れた。
風がすさまじく吹きすさぶ。
稜線では 風が
雪面の雪を巻き上げ吹き飛ばしてしまうため
歩行する地面はアイスバーンとなる。


ここでは アイゼン装着となった。
アイゼンをくるんでいた新聞紙が
まるで これから 俺らはああなるかのように
稜線の崖下へ飛んでいった。

極寒の中誤って
鉄でできているアイゼンを素手で触ってしまい
あっけなく手の皮が アイゼンに剥ぎ取られる。
痛みはなかったが
4つしか爪がないアイゼンを握り締め立ち尽くす。




そう 4つしか 爪がないアイゼン。。。


明らかに旧式な登山装備なのである。
実際 登山前に登山用品店に
雨具を購入しに行ったのだが
そこに置いてあるアイゼンを眺めて
おったまげた。


なんと 爪が8つもあるではないか!!

冬山登山なんてほとんど初心者(過去経験2回)
俺達のアイゼンなんて爪4つ。
ぼ〜っと立ち尽くす俺に店員さんが話しかけてきた。

店員 「ご購入ですか?」

「いえ そうではないんですが。」

一回ごくりと唾を飲み込み恐る恐る質問してみる。

「いまどき 4つ爪のアイゼンで冬山登るなんて人いるんですかねぇ??」


店員 「ははは そりゃ 
自殺行為ですよ お客さん。」



「そうですよね あっはっは。」

そのアイゼンを今俺は握り締め立ち尽くしている。
紐で固定するのだが 途中で外れれば 再度装着する手段はない。
氷の斜面のため どうにもアイゼンなしでは
踏ん張れないからだ。

そうなると 滑落していくだけの話である。


もしそうなったら 先輩曰く
夏に骨を拾いにきてくれるそうだ。
実際 仲間がそうなったら
自分も同じように
現状ではどうすることもできず
そうするであろう。


そんな男の友情を噛み締めながら
丹念にアイゼンの装着具合を何度も確かめる。


よし!!



顔を何発か軽く叩き
再び俺は先頭を歩き出す。
無心だった。
当初 死の予感すら覚えたが
ただただ 黙々と一歩一歩踏みしだいていく。









それが良くなかった・・・・・



振り返ると誰もいなかったのである。(号泣)


耳を澄ましてみても 吹雪の音しか拾えない。
これ以上進むのも危険と判断し
耳に全てを集中し


待機。



Weif〜〜〜〜〜〜
ゴォ〜〜〜〜〜〜  そっちはちげぇぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
ゴゴォ〜〜〜〜


かすがだが 先輩の俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
そうなのである。
俺は明らかに文字通り道を誤った。


できる限り精一杯の声を出して
先輩の名を叫び続けた。
むこうに声が届いたらしく
そしてこっちへ近づいてくるらしく
先輩の声が徐々に近くなる。


「ばかやろぉおぉおおおおおおおおおお!!」


「押忍!!」

と一言ずつ男の会話が交わされ正規のルートに戻る。


俺の行った道は あと数メートル先は
雪庇(崖上に 風によりひさしのようになった雪の吹き溜まり)
になっていたため
もう少しで雪庇に乗ってしまい
転落死していたのである。


ひやっとするよりは
皆ととりあえず 合流できたことに歓喜していた。
こうして黙々と 無線で連絡が取れない本隊との合流を目指した。


実際 本隊がこの天候で登ってきているかも不明だったのだが
男達は凍傷で腫れぼったい顔をしつつも
ただただ 黙々と歩みを進めた。
天候が回復する兆しもない。

皆 身も心もボロボロだった。
男達はひたすら合流地点を目指した。

そして



ついに その地点へ!!




しかし 本隊は来ていなかった。



男達は力尽きたかのように
ひざを深く落とす。。。





「・・・・・・」




誰一人として もはや口を開く者はいなかった。







そのときである



「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」


かすかだが聞こえる。


「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!」


我々はその声に対し 耳を澄まし
お互いに顔を見て確認しあう。


「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!」


確かに聞こえたその声!!



そう


本隊は来ていたのである。

合流地点は標高も高く風も強いため
すぐ下の山あいのくぼみに避難していたのであった。
そして我々の到着を信じて待機していてくれたのであった。
こうして我々は互いの生存を確認しあい
下山とあいなった。



下山の際 ウータンが明るい笑顔で  超さわやかに ぼそっと言った。

「俺 夏山の経験は多いんだけど 冬はあんま登ってないんだよね。」


「・・・・・・・・・・・・・・!!」


俺はハッキリとこの目で見た。
ウータン以外の別動隊メンバーの動きが明らかに一瞬凍りついて止まるのを。。。
なぜなら 皆彼に絶対的な信頼をおいていたからだ。


「あんたを信頼してたから
みんな登ったんだべ!!」



と心の中で叫んだことは言うまでもない。

都会育ちのもやしっ子である俺には
自然の脅威を何よりも痛感した経験であった。
大自然の雄大な営み。
俺は忘れない。
いつまでも。




華を咲かそう