その5) 交通事故ファイル Vol.2


事故当時 俺は19歳か20歳だったろうか。
俺は某ピザ屋でピザのデリバリーを やっていた。
なんせ うちのピザ屋は台風だろうが
大雪だろうが 営業していた。

台風時 デリバリーをやると
どうなるか 皆さんご存知であろうか?


ウェストポーチに 金を入れているのだが
閉めるのを忘れて走ると さぁ大変
ウェストポーチ すりきり一杯まで

水が溜まっているではないか!!

客先で ヨレヨレびしょびしょで
水がぽたぽた垂れて
半分とろけている お札を
おつりが生じたらさし出さねばならない。
そんな時 俺は 必ず
客先の下駄箱に


バチコン!!

「まず 千円のお返しになります」


ってな感じで貼って帰ってきていた。

そして バイクまで戻ると
強風により バイクが横転していて
エンジンオイルが どくどく

漏れているではないか!!
横漏れサイドギャザーつけとけや!!




うちの店には キャノピー(屋根つき)
ジャイロX(屋根なし)とあったのだが
俺は大抵 ジャイロであった。

台風の日の走行時
ジャイロは前にシールド(透明の板っぺら)がついているのだが
半分以上 びよ〜〜ん
しなるありさまで
雨が容赦なく顔面を叩く。


そして 車体面積がデカイため
(後ろのピザ入れる箱など なんか無駄にデカイ)
風にあおられ しばしば対向車線
はみ出すこともあった。


そしてなにより怖かったのが
強風によって車道に飛散する
ガラクタ。


小さいものから大きいものまでありますが

俺がクラッシュしたのは
飛来してきた









冷蔵庫!!!





うぉおぉぉおおぉおおおおおおおおおお!!



気付いたときにはよけきれず
俺はもう逝ったと思いました。

冷蔵庫だと思った そのデカ物は
実は 単なる発砲スチロールだったのですが
それが 空中から襲いかかってきたときには
確実に生命の危機を感じました。

なんで 冷蔵庫が空飛んでいるんだ??
義務教育課程では習ってないよ!!



と疑問を覚えつつ戦慄したものです。
雨戸のトタンが飛んできたときは
それほど ビビリはしなかったんだが
これには 恐怖した。


夏場の配達は うだるような暑さ
そして何より台風が嫌だった。

そしてもう一つあげるなら
それは 昆虫


別に虫嫌いなわけではありません。

夜間 フルスロットルで走行時
虫がヘッドライトに誘われて来襲し
あいにく フルフェイスのヘルメットではないので
下手すると目に入るからです。


ちっちゃい虫(俺らは頭にたかるから頭虫と呼んでいたのだが)が
特にうざい。

でも そんなもんが目に入ったからって
運転ミスするほど
俺は下手くそな運転はしない。
そう自信を持って運転していた。

しかし 運転ミスは起こってしまったのである。


いつも通り 川沿いの道を
くわえタバコ フルスロットルで駆け抜けていた あの日。






バチッ!!!



なんか黒いものが俺の右目に直撃!!


右目に激痛が走る!


いてっ!!


そう思ったときには 近くの花壇に突っ込んでました。

飛来した それは

そう




カブト虫




もうちょっとで

右目失明かと


思いました。


目は2〜3日腫れました。


夏はなんとか命をとりとめ
バイトは冬へ移行していく。


デリバリー殺しの
雪と氷のパラダイスがやってくる。。。


デリバリー要員全員が 雪により

鬱な中  この冬一番乗りで


先陣を切ってくれた勇者がいた。






俺は君の名を忘れない!!


勇者 K村!!(当時T大生)


うちは11時閉店なのだが
とある日の閉店間際に 彼は傷ついて帰ってきた。


傷ついたと言っても 外傷はなかったのだが
疲れきった顔をしていた。




彼はおもむろに外を指さす。
なんだろうと 思って
店外へ皆で出る。

彼の乗っていたバイク。








屋根がない!!!!!










出掛けには確実にあった

キャノピーの屋根がなかったのである。

皆 彼に尋ねる。


一体お前はどんな戦場を駆け抜けてきたのかと!!


ギネス記録である 趙雲の曹軍100万一騎駆け超えちゃった??


と誰もが思う中

彼は重たい口を開いた。





「飛んだよ・・・・・・・・」





俺はそのとき彼の肩口から
がはえているのを確かに見た。

どうやら 対向車をよけるために
雪かきをして山になっていた
道路わきの雪にのりあげ
初のフライト。


重力には勝てず
どうやらE・Tには なれなかったっぽい。



「給料から引いとくよ」



店長様の暖かい一言に
皆 ニッコリ。



事故ったら自腹かよ!!

誰もが気をつけようと思う中


次に 勇者 K村の後を追うのが

まさか 俺だったとは。。。

その日も閉店間際だった。
この一件配達すれば 終わりだなと思い
気の緩みがいけなかった。
右折したかったので 車線変更しようと思ったそのとき

バイクには天敵である
車のわだちでできあがった
ガチガチに凍結した雪の中央分離帯に
乗り上げてしまったのだ




ぬおぉおぉおぉおお!!


ハンドル取られまくりで
なんとか立ち直ったものの
右折地点で止まれるように
ブレーキを握ってしまったため
前輪がロック


あとはソリのように
滑っていき
そのまま転倒。


目撃していた歩行者が
ガードレールを飛び越え
助け起こしてくれた。


後続車が来ていたり
こけずにそのまま
交差点に突っ込んでいたら
間違いなく あなたの知らない世界逝きだっただろう。


結局ピザはぐちゃぐちゃになり
代わりに他の仲間が配達することとなった。
外傷も軽い打ち身で済んだ。


無事 勇者 K村に追いついたと
安心しきっていた 

次の生贄は誰であろうかと
ニンマリ。

不穏な空気が店内を包む。
しかし 次に 勇者 K村
追うことになったのは



またしても 俺だったのである。(号泣




相次ぐ バイク損傷からなのか
店に新品のバイクが何台か
購入されていた。

俺はその日 そのうちの
一台にまたがることになった。


「まだ 慣らし運転だからあんま ふかさないでよ!」


と言う店長の暖かい言葉を受け
今日も俺はデリバリーへと旅立った。


そして 工事現場があって
ガードマンに トラックが出るから
止まるように指示された。


俺は黙ってバイクを止めて待った。
かなり大型の10tはいけるだろって
トラックが出てきた。

後輪が左右合わせて16個あり
荷台は 俺がバイクにまたがった時の
視線より であった。


方向が一緒なので
そのトラックについて行った。


そろそろ 客先だなと思い
伝票でアパート名を確認し
近くのアパートの外壁に書かれた
同一の文字を見つける。


よし あそこだと思った瞬間
前のトラックが停止。
しばし 間があったのだが

停車して なにやってんだ コイツ??

と 思った瞬間 事件は起きた










後方確認なしの全力バック!!






そんな剛速球 伴宙太も取れないアルヨ!!


俺はみるみる 荷台の影に吸い込まれていく。
俺はほぼ真後ろにいたため
急いでアクセルをふかし
ハンドルを切って左へ回避しようとした。


慣らし運転もくそもない。
フルスロットルだった。

しかし間に合わなかった。

バイクは横倒れになり
右足が バイクとトラックの左後輪に
あっけなく 挟まれた。

丁寧に一杯ある後輪で俺の右足
ぐりんぐりん にじりまわす。

運転者はまったくもって
俺に気付いていない。

倒れこんだ形がよくなかったためクラクションには
手が届かない!!

俺は必死で叫び続けた!!

僕はここにいるよ。
激しい痛みで声にならなかったが叫んだ!!







「いでぇよひょぉぅ いでぇよひょぅお あひ おれひゃぅよひょぉ」
(直訳「痛いよ 痛いよ 足 折れちゃうよ」




北斗神拳をまともにくらっちゃった
森○一のような叫びであった。


運転者は 
やっとその美しい声に気付いたのであろう。


美しい姫を見つけた王子のように
そのドデカイ 泥だらけの白馬から
スタっと降りてきたっぽい。


実際 運転席側は見えなかったし
ドアの開く音と足音しか聞こえなかった。



王子様は私になんて声かけてくれるのかしら
ウッフン!

第一声は一体なんだろうかと期待していると





「あんた なにしてんの??」

「え??」


一瞬静寂となった。
ある意味 恋に落ちそうな瞬間でもあった。





「てめぇが 轢いたんだろうがぁぁああああ!!」

「え??」


形勢一発逆転であった。
みるみる運転者の顔が青ざめていく。

「だいじょうぶ??」




「うん だいじょうぶ」





なんだか知らないが配達しなきゃってことしか
この時 頭になかったのである。

実際 俺も頭が痛みと興奮で逝っちゃっていた。
おもむろに BOXからピザを取り出し
足を引きずりつつ客先にピザを運ぼうとするが
ピザはぐちゃぐちゃ。

運転者に携帯を借りて 店へ電話する。

「すいません 事故ってピザぐちゃりました。」

「また 事故ったの?? んじゃ いいから お店すぐ帰りなさい。」


なにかが間違っていた。
なにかが。



そう あとで気付いたのだが
こんな時は症状が軽くても
救急車を呼ぶべきだったのだ。



結局 運転者に連れられて
工事の現場監督に会いに行った。
年末の多忙な時期でドライバー減らせないから
警察は呼ばないでくれと土下座された。



ここでも救急車の話はでなかった。


結局示談にすることにし
俺は店に帰った。


ここいらで 冷静になってきたのか
足に激痛が走る。。。


冷や汗をぐっしょりかいてきた。

気分が悪い。。

痛い。。。 病院いかないと
まずくないかな?。。

店に着くと

店長はやっぱり優しくて涙が出た。




「その足じゃ配達いけないから 電話番してね!!」




ここでも救急車の話は出なかった。


俺は激痛をこらえて なぜか電話番をしていたんだが
耐え切れなくなって 早退となった。


昔から病院嫌いだったので
救急車を自分で呼ぶことにひどく抵抗があったのだ。

しかし 自分で呼んだほうが良かったのだと今になって思う。


轢かれた当初 なんともないように見えた右足。
ジーパンを久しぶりにあげて
見てみる。








「なんじゃこりゃぁあぁあぁああああああぁあ」






自分の足じゃなかった。

明らかに あなたのお住まいは地球じゃないでしょ?

って感じの足に めでたく トランスフォ〜〜ム!!

コンボイ級に轢かれて 足が コンボイに!!(泣

ママ 助けて〜〜〜〜〜〜。


結局 帰宅して おかんに

「あんた 馬鹿じゃないの??」

とサラリと言われて 病院へ御用とあいなった。
骨が頑丈だったのか
骨に破損箇所はなく
腫れあがっただけで済んだ。
奇跡だ!!

こうして ピザ屋の冬は終わった。



華を咲かそう