その4) 轢き逃げ
俺は某ピザ屋でバイトしていたんだが
その日は夜で
いつも通り ○○通りの坂を
ふけあがった ジャイロで
ヴぃ〜ヴぃ〜いいながら
フルスロットルで駆け上がっていた。
実際 ピザ屋を長くやっていると
不思議なもので
何丁目何番地と言われると
すぐにルートのイメージがわき
最初の信号のタイミングで
次の信号はこうなり こうであるから
このルートを選ぶのがベストである
と分かるようになる。
そんなベテラン級であるにもかかわらず
俺は一向に昇格する気配はなかった。
なぜなら 店長の認識の中では
俺は店のガン細胞 くさったみかんだったからだ。
それだけの問題を俺は実際 冒してきたわけなんだが・・
それは また後日語るとしよう。
そんなわけで ○○通りを選んだ。
ここはいざとなった時 広い歩道が
とっても魅力的。
「おせぇなぁ・・・」
あいかわらず ジャイロちゃんは遅い。
西部警察の鉄仮面(スカイライン)なみに
なんか ケツから ドバッと火吹いて速くなんねぇかなぁ・・
このバイクじゃ 大門軍団フォーメーション入れねえよなぁ・・・
そんなときである。
ぬお??
道路に飛散した荷物
なんと!?
人が倒れているではないか!!
そこは 車道のど真ん中であった。
とんでもないものの第一発見者になってしまった・・・
このまま 見過ごすわけにはいかないな・・・
そう思い 配達そっちのけで
バイクを車道わきに止め
倒れている おっさん
(もちろん俺的には美女が良かったのだが
この際 そんなことを言っている場合ではなかった)を
両脇の下から 手を入れ
頭部を打っている可能性があったので
なるべく 頭を動かさないように
道路わきに運ぶ。
安全な場所についたところで
おっさんの耳元で
意識があるかどうか確認するため
声をかける。
もし もぉし??
返事がない ただのしかばねのようだ。
意識はないが 口元に手の平をあてると
かすかにおっさんの息があたるので
生存していることは分かった。
そして 見た感じはひどい外傷も
出血もないことが分かった。
実際 呼吸してなかったら
気道を確保して
人工呼吸(まうす とぅ まうす)せにゃあかんかったので
頼む 息しててくれ!!と
思っていたのは もちろんのことであった。
ちなみに成人だと 15回肺プッシュの2〜3回吹き吹きかな。
逆に美女だったら 息をしていても・・(以下略
そんなこんなで 救急車を呼ばなければと思ったが
携帯電話嫌いな俺が携帯を持っているわけもない。
飛散したおっさんの荷物を集めてみても
電話もなければ 身元確認するようなもんもなく
通りがかった車をつかまえるか
近くの民家まで 走るしかない。
そんなとき 車が通ったので
引き止めた。
俺は即座に質問した。
「電話貸してくれませんか?」
そんなとき 次々 車が通りがかり
気になった人達が車を止めて 降りてくる。
皆さんは事態があまり飲み込めていないらしく
誰も電話を差し出す気配がない・・・。
彼らは しばらく
倒れている おっさん
車道に横付けになっている俺のバイクを見て
ようやく ことの重大さに気付いたらしい。
「あなたが 轢いたんですか?・・」
ちげぇよ!!
なにがあったのかを初めから 彼らに全部説明する。
そして 騒ぎを聞きつけ
近くの民家の人も出てきた。
そんなとき 倒れていた おっさんがムクっと
起き上がった。
民家からでてきた おばさんが一言
「おじいちゃん そんなとこで寝てたら
風邪ひいちゃうわよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
おっさんは よっぱらって
近くにあったハンドバッグ持って
道路まできて そのど真ん中で寝ていたらしい。
アルコール臭さに実際 気が動転していて
気付かなかった俺も俺だが
おっさんには呆れて何も言えなかった。
しかし おっさんの頭を鷲掴みにして
耳元で 二度とすんじゃねぇぞ!!
とだけは はっきり伝えた。
そして俺は 我に帰って
配達があったことに気付き
こうしちゃいられねぇと 急いで客のうちへバイクを走らせた。
客先では あまりにも遅いので
店の方へ何回も確認の電話を入れたらしく
例のごとく マダムの遅いわよ演説をしばし聞く羽目になった。
そして 店へ帰ると
ここでも 怒な人が約一名いて
すでに 店先に出てきて仁王立ちしていた。
あっちゃぁ と思いつつも
バイクを停車。
シカトして店に入ろうとしたら
腕を激しく掴まれた。
ぬぬぅ・・
「何してたの??」
俺は正直に答えた。
人
命
救
助
で
す
一体 何が気に障ったと言うのだろう。
普通なら表彰もんでしょ??
「もっと ましな嘘つけないの?」
「女だと思って舐めないでよね!!」
でたぁ〜〜〜店長の口癖!!
俺はヒステリックに男に対し過剰に反応し 噛み付く女が大嫌いなので
実際 店長とは何度も衝突を繰り返してきた。
バイト仲間には
浮気のバレた亭主とその妻
だと いつも冷やかされており
皆はそそくさと
また 夫婦喧嘩はじまっちゃったよ
と明らかに距離をとり 誰一人としてフォローを入れてくれない。
これで この店長のセリフ聞くの何回目だろ
と 思いながら店に入ったのだが
そのまま 事務所にも連行。
次なんかやったら クビと宣告された。
便所掃除の刑となったのは言うまでもない。
なんで信じてもらえないのよ・・・。(泣
そして この後 しばらく 会長(店長のおやじ)に
配達中 ずっと尾行され続けることとなる。
一応 ランニングシャツ着て 深々と帽子をかぶっているのだが
バレバレです。
しかし このあと 店に通報があった。
どうやら 轢き逃げ現場にいた人の一名が
うちのピザを注文し ついでがてらに
こんなピザ屋さんがいましたが元気に働いてますか?
と さり気なく俺のフォローをしてくれたっぽい。
ちっとも 元気じゃないよ!!
店の対応には不満タラタラであったが
うちにはエース級のドライバー(勇者 K村など
彼の詳細は 死を感じた瞬間 Part 5) が沢山いたので
こんな楽しいバイトはないと思い
その後も 働き続けた。
華を咲かそう