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ハックルベリー・フェロウズ(Huckleberry Fellows)






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校門を急いで駆け抜けて
いつもの駄菓子屋『ときわ商店』へダッシュ。



今日は大地と
そこで落ち合う約束になっている。


大地は今日のプールを
ズル休みした。


朝のラジオ体操には来ていたのに
後生大事にしているカブト虫の『金太郎』の
具合が悪いらしく

ちょっと様子を見ると言って
プールには顔を出さなかった。


基本的にうちの学校の夏休みのプールは
強制ではなく 有志であり
来たい人が来ればいい仕組みだ。


暑い日は大勢の生徒が来る。



僕もカブト虫が大好きだから
大地と同じ目に遭ったら
きっと そうするだろう。


今度僕のマッカチンと
対決させる約束をしてあるんだが
大地は僕の巨大なマッカチンに恐れをなしてか
中々実現していない。


マッカチンとは
大きなアメリカザリガニのことで
地方によって呼び方は違うが
僕らはそう呼んでいる。


丸太上の勝負では五分五分かもだけど
水中戦では 絶対に負けないと思う。




ときわ商店に たどり着いたときには
プールでふやけた体から
湯気がたちのぼっていた。


蒸し返すような暑さも
災いして 僕は気分が悪くなった。


暑さのためなのか 軽い眩暈のせいなのか
目の前のアパートが熱気で揺らいで見える。


大地はまだ来ていないようだ。
人通りも昼間の暑さのせいかあまりなく
とても 退屈な時間が過ぎていく。


セミの声が頭にガンガン響く。


『あーもうー うるさーい!!』


『ボウズよ 蝉は日本語分かりゃせんがな』


奥で扇風機に当たって横になっているときわ商店のばーさんが言う。


んなこと 僕だって分かってるやい。


でも 言い続ければ
いつかは僕の言葉を理解してくれるんじゃないかなと
思っている。


むしろ 蝉のオーケストラを
指揮することだって可能なんじゃないかって
僕は本気で信じている。




空を眺めると
真っ青な空に
燃え滾るような太陽が


ギラっと僕を睨みつけている。


負けずと睨み返してみたが
眩しすぎてダメだ。


ポケットから
緑色のセロハンを取り出して
太陽を見てみる。


理科室からゲンが
大量にくすねてきたのを一枚もらっておいたんだ。


セロハンだと見えるのに
なんで裸眼だと 眩しいんだろう。


ちゃんと円いんだが
あれが せんべいみたいに平らじゃなく
球体だって 理科の先生は言い張るんだから
どこか頭がおかしいんじゃないかと思う。


実際に見てきたわけでもないのに
何でそう断言できるんだろう。


僕が今立っている地球も
球体らしいんだが
ずっと平らな土地が続いているような気がする。


世界の最果ては断崖絶壁だと考えていた
昔の人達の方が正しいと 僕は思う。


行ってみないことには
僕は信じられない。


いつかは地球の最果て
海の向こうへ 本当に地球が丸いのか
確認しに行きたいと思っている。


その時は 自分で作ったイカダか
ヨットで行ってみたいなぁ。


お菓子を一杯持って
大地とロクとゲンの4人で行きたいなぁ。


太平洋を渡るならば
とりあえず ハワイで一回休憩したいな。


そうじゃないと 疲れちゃいそうだ。




『ばーさん 地球って球体らしいよ?』


『ふん! 恥丘が老体で悪かったね!!』


と ばーさんは何故か気分を害したらしく
プイっと そっぽを向いた。


このときわ商店は僕らの溜まり場であり
良く店先でめんこやベーゴマで遊ばせてもらったりする。


最近は 駄菓子屋の名物であるウメばーさんも
少しだけ耳が遠くなった気がする。


そう思うときもあるんだが
ときには ここに集まる僕らの話を
大きな声で話しているわけでもないのに
聞き取っているときがあるから
本当はどうなのか分からない。


本当は聞こえるけれど
聞こえない振りをしているんじゃないかと
時々思う。


ウメばーさんは
旦那には先立たれ
子供は独立し出て行き
1人で駄菓子屋を取り仕切っている。


だから 子供相手に商売をしていて
少しは寂しさが紛れるのか
僕達にも 気さくに声をかけてくれる。




もう少しで大地と会う
約束の時間だ。



Tシャツが汗でひっついて
グッショリだ。


せっかく プールに入って
少しは涼しくなったのになぁ。


何か飲みたいが
ポケットには 10円玉しかない。


『ばーさん 10円で何か飲ませてくれよ』


『金がないなら そこの生温い水道水でも飲んでな』


と 駄菓子屋脇にある古い水道蛇口を指差す。


『それが嫌なら 神社の井戸水でも飲みに行くんだね。』



ちぇっ!

思わず舌打ちをした。
相変わらずケチンボだ。


自販機を蹴飛ばすと


店の奥から


『壊したら弁償してもらうよ』


という声が飛んできた。
このばーさん 本当に耳が遠いんだろうか。



昔 悪い先輩が
ウメばーさんがよそ見しているときに
店の品を盗んで走って逃げたんだが


ばーさんは 旦那の形見の下駄を履いて
追いかけたにも関わらず
その先輩を捕まえて
店の前に 2時間ほど正座をさせたことがある。


万引きしたガキは警察に突き出さず
親にも報告しない代わりに
私が裁くってのが持論らしい。


しまいには万引きした子供には
店の手伝いまでさせるんだから
それは法的に正しいのか
間違っているのか 良く分からない。


その事件以来 僕達 第二小の生徒は
誰一人 万引きをしようなんて思わなくなった。




あー 喉がへばりつく
唾が ねっとりとしていて
口の中が乾ききっている。


こんなときは 父がいつも
おいしそうに飲むビールを思い出す。


でも実はちょっとだけ
舐めたことがあるんだ。


なんか 苦いしさ
想像していた美味しさには
程遠い味だった・・・。


あんな泡を吹いた小便みたいな物
良く大人は美味しそうに飲めるよな。


コーヒーも全く同じで
あんな墨汁みたいなもの
とても僕は口に含む気になれない。


飲めないと友人達は
僕のことをバカにするけれど
あんな物を飲まなければ大人になれないのなら
僕は大人になんかなりたくない。


あまりにも喉が渇くので
とりあえず 駄菓子屋の前にある
自販機の下にお釣りが落ちていないか確認した。


うーん 1円も落ちてないなぁ。
たまに確認して 小銭を発見すると
世の中に還元してやるんだ。


前にお巡りさんに100円を届けたことがあるんだけれど
100円以下なら 届けなくていいよと言われた。


でも 本当は例え1円だったとしても
拾得物として届けなければいけないと
学校の先生は言っていた。


きっとお巡りさんは拾得物の
書類の手続きなんかが面倒だから
僕にはそう言ったのかも知れない。


でもまあ 僕はこの小銭が入りたかったであろう
自動販売機の中に戻してやるんだ。


それで 僕達も冷たいものが飲めるんだし
皆がハッピーになれる。


落としたり、取り忘れた人は
ご愁傷様だけどね。



チェリオの販売機の周りをグルリしてみるが
何も落ちている気配はない。




仕方ないので ダメ元で
店の裏に積み上げてある空き瓶を持って
ばーさんの所へ持って行ってみる。


酒屋さんや商店では
空き瓶を数十円で回収してくれるところがある。


古本屋でも古い漫画や雑誌など
数十円で買取してくれるため
僕達は小銭欲しさに 回収しに
近所を回ることがある。



ばーさん 空き瓶30円で買ってよ。
4本あるからさぁ。


『あんた裏から持ってきたんでしょ?』


『ちゃんと戻しておきなさいよね』


うーん ウメばーさんは
何でもお見通しだ 悪いことはできないね。


『あんた悪さしてっと 寝小便するよ!』


仕方なく カルキ臭い水を
口に含んで 頭を濡らしていると



バサッ!!




っと 突然何かが 目の前を塞いだ。



いててててっ!




網状の物が 顔面に食い込む。
イタイイタイイタイ・・・。


目を瞑っているけれど
目にも食い込んでるってば。


くっそー 大地だな??


いててててっ ちょっ おまっ
引っ張るなってば!!


目をつぶりながら
必死で網をぬぐいさろうとしたが
容易ではない。


鼻もひしゃげてしまって
鼻から息ができない。


口をあんぐりと開けるが
そこから 涎が垂れているのが分かる。



きっと 今の僕は
人にはあまり見せられない
酷い顔をしているんだろうなぁ。


元々自分の顔がかっこいいと
思ったことはないけれど
これ以上 酷い顔にはなりたくはない。




大地はすぐに
人の頭に 虫捕り網をかぶせる。


昆虫を捕まえたり
ドジョウやザリガニを捕まえるのに ドブを浚うので
いい匂いのする網ではない。


すぐ破れる網が多いので
彼なりの工夫で いくつかの網を幾重にも重ねてある。


だから 凄く頑丈に出来ている。


かぶせるだけなら
まだ可愛げがあるが
力任せに 引っ張りまわすから 痛いのなんのって。


ウメばーさんのガッハッハという
女性らしからぬ ウルトラマンに出てくる怪獣にも似た笑い声が聞こえる。


これで 網をかぶせられたのは
何回目だろうか。



最初は頭に来たが
もうこれが大地の挨拶みたいなもんだと思って
諦めている。


かぶせられる前に大地を発見できれば
未然に防げるんだが
今日は油断しきっていた。



顔面を覆っている網を何とか手で掬い上げ
大地の方を キリッと睨み返してやった。




『何すんだよ!!』




大地は腹を抱えながら
笑い転げていた。




大地とは保育園から一緒だ。
家も割りと近い。


でも大地は あまり友人を
家に呼ばない。

彼自身 あまり家にいるのが
好きじゃないみたいだ。


彼は いつも知らない男を
とっかえひっかえ家に連れ込んでいる
母親が気に食わないし 許せないらしい。


近所からも 大地の母は
インバイだと 言われている。


僕はインバイが何か知らないが
きっと 良くないことなんだろう。


そんなわけで 僕もあまり 大地の家には
近づかないようにしている。


知らない男達が
ときどき 酔っ払っていて
物を投げてきたり 暴力を振るってくるからだ。


変わりに僕達も
パチンコで石ころや
犬のうんこ飛ばして あいつらに
ぶつけてやったことがある。


ほとんどの男が酔っ払いなので
僕たちの逃げ足には追い付けないから
遠くから物をぶつけるくらいなら安全だ。



そういう家庭事情からなのか
大地は いつも口癖のように
俺は1人で生きていくんだ と言っている。



僕も彼に協力して
一緒に木の上に秘密基地を作ったりしていて
他にもロクとゲンという双子の協力者がいる。





おい 健児
お菓子買ったら 秘密基地に移動な。



おうよ。


僕は彼のことが好きだ。
変な意味ではない。


いたずら好きではあるが
面倒見も良くて 男気があって
ガキ大将って表現がピッタリの男だ。


おまけに学校の生徒会長までやっている。


皆の前では それで通っているけれど
僕の前でだけは 時々淋しい顔を見せる。


特に授業参観だったり
学芸会などで クラスメイトの家族が
学校へ来ているときだ。


特に運動会では
リレーのアンカーだってできるくらい
運動神経がいいし
何をやっても一等賞なのに
それを 見ていてくれる家族の姿はない。


騎馬戦だって 彼の馬は潰れないし
帽子を取る数だって半端ないんだ。


だから 運動会のお弁当も
うちの家族と食べている。


そういう意味では
僕達は兄弟みたいなもんだ。


どっちが兄とか弟ってことじゃないけれど
僕は実際 彼と兄弟であっても
何の違和感もないと思う。





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