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ハックルベリー・フェロウズ(Huckleberry Fellows)






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登校日は宿題の提出をして
避難訓練をして おしまいだった。


うちのバアちゃんから
9月1日は大正時代に関東大震災があったらしく
そのせいで 避難訓練があるんだよと 聞かされていたので
何で9月1日なのかは学校で教わるわけでもなく
前から知っていた。


そんな訓練があったがために
ゲンは余計な知識を覚え
学校中の消火器をブチかましたり
不用意に非常ベルを鳴らしたりしたことがあって
昔 学校が大混乱になったことがある。


避難訓練のとき
ゲンが僕に話しかけてきた。


なぁ 学校の消火器さ
一本もらっておこうよ。


きっとこの間の小火を気にしてのことなんだろう。


いや 小屋の中で二度と煙草を吸うな!


と 僕は強くゲンに言い放ってやった。
ゲンはちょっと むくれ顔になったが
少しは反省しているのだろうか
コクリと首を縦に振った。











そして 放課後の帰り際に
海原先生が大地のことについて触れた。


その話の内容は信じられない物だった。
クラスの一同は凍りついた。


僕はもう身の毛がよだち
何とも言えない怒りと悔しさで一杯になった。


力一杯 自分の机を
これでもかって位 両手で何度も叩いた。



クラスのリーダー的存在だった大地が
急性白血病で入院していたのだから・・・。


どんな病気かは良く分からなかったのだが
海原先生が沈痛な面持ちで
彼の病状を語る度に
僕は胸が締め付けられていった。


簡単にいえば
血液の癌なんだそうだ。


大地は父親を肺癌で亡くしているし
何かそういった血筋の家系なんだろうか。


それで治療のために
仕事もしていなかった彼の母は家を引き払い
実家に戻っているとのこと。


実家は彼の住んでいた家から そう遠くない場所にあることを
彼自身から 前に聞いたことがある。


どうして そんな大事なことを
大地は親友の僕に真っ先に打ち明けてくれなかったんだ。


あいつのことだから
誰にも心配かけたくなかったし
ただ1人で病気に立ち向かおうというのだろう。


それが僕は許せなかった。
一言くらい相談や連絡をくれても良かったのに・・・。


防空壕探検の前の日だって
あんなに元気だったのに・・・。


でも いてもたってもいられなくて
先生に入院先を聞いた。


幸い入院先は
市内にある中央病院で
ここから そんなに遠くはない。


先生 大地の病気はすぐ治るんでしょ?!
僕は先生に怒鳴りつけるように質問した。


海原先生は
質問に困りながらも
きっと 皆で応援すれば治るわと
頼りない返事をした。





クラスでは千羽鶴を折って
皆で手紙をそれぞれ書こうということになった。


これは里佳が迅速に動いて提案したことだった。
満場一致で 誰一人意義を唱える者もなく鶴を折ることになった。


僕と双子は急いで病院へ行ったが
その日は大地の具合が悪くて
面会させてもらえなかった。


彼の母親に基地ができあがったことだけは
報告してくれるように頼んで その日は
病院を後にした。


とにかく 夏休みの宿題もろくすっぽやらない僕が
家に帰ると ひたすら千羽鶴を折った。


といっても 鶴なんて折ったことがないので
お隣の里佳をすぐに呼んで
必死で折り方を教えてもらった。


最初の一羽こそ ぐちゃぐちゃな鶴だったが
要領さえ分かれば大したことはない。


折り紙なんて 女の遊びだと思っていたから
ほとんどしたことがなかったんだが
結構楽しいもんだね。


一番綺麗に折れた鶴を
手の平に乗せて 我ながら上出来なのが出来たと
しばし眺めていると


母がお茶菓子を持って来てくれたが
食べている暇などない。


慌てて次の鶴を折り始めた。


里佳は母が出した紅茶を啜りながら
あまり 無理しないでよ
と 優しく諭してくれたが


いてもたってもいられないので
結局 僕は徹夜で鶴を折り上げた。


里佳の作ってくれた分も合わせて70羽程。


次の日の授業中も凄まじい眠気の中
授業そっちのけで 僕は鶴を折っていた。


海原先生も本当は僕を叱るべきなんだろうけど
黙認してくれていたようだ。


クラスの皆も折ってくれていて
1人10羽程折ってくれたので


それで300羽



授業中に僕自身で折った物と合わせて
1日ちょっとで400羽になった。


あと 600羽か。
今日も折るぞ。


帰ると家に里佳と双子を呼んで
一心不乱に鶴を折った。


ゲンは鶴じゃなく
紙飛行機の方がカッコ良くね?
千機飛行機にしようよ
などと言い出し 勝手に紙飛行機を折り始めた。


鶴なんかより 飛行機の方が大きいし
格好いいし これならB29が来たって大丈夫だぜ
と訳の分からないことを言っている。


ロクが お前の折ったゼロ戦じゃ
すぐ落ちるよ 竹槍でも持って
大人しくしてろと言うと


ゲンはムッとして
一触即発の状態になったので
里佳が ゲンは飛行機でいいよと
なだめすかして 大人しくさせた。


最初から 彼は戦力になると思っていなかったので
皆 彼を放っておいた。


しまいには 紙飛行機にも飽きて
手裏剣などを折っている・・・。


やっぱ 男は黙って忍びだよな。
影に生き 影に死ぬんだ
と また訳の分からないことを言っている。


一体彼は 何を見て何に影響されて
物を言っているんだろうか・・・。


皆 呆れ顔だったが
これがゲンなんだからと 諦めの境地に至った。


気づくと僕は眠りに落ちていて
里佳の置手紙があった。


里佳の字は相変わらず達筆だ。


皆が協力してくれているから大丈夫だよ。
大地は健児にとって かけがえのない友人なんだね。
ちょっと そういう友達がいるって羨ましいな。
でも あまり無理はしちゃダメだよ。 里佳


あとは その手紙の下に
汚い字 しかもきっと地球人でも僕にしか解読不可能な字で
ゲンのメッセージも書き添えてあった。


俺は見舞い用のコオロギを例の防空壕で
一杯取って来るぜ。

あとよ 病室から俺の折った紙飛行機を一杯飛ばそうぜ
きっと面白いぜ 誰が一番飛ぶか勝負だぜ。 ゲン


その下には 里佳と同じく凄く達筆な字でロクのメッセージがあった。


とりあえず 寝て食えよな それだけしてれば 何とかなる。 ロク


ロクのメッセージはどこか達観していて
小学生のメッセージとは思えなかった。


でも皆がこうやって協力して
何かを成し遂げたり
それぞれがそれぞれの思いを巡らして
良かれと思って何かをすることは
決して悪い気分はしないなと思った。


ボーっと手紙を眺めながら
部屋に置いた丸テーブルを見ると
羽を大きく広げた鶴達が
234羽あった。


これで 確認できている物だけでも634羽。
明日 クラスメイト達も
折ってきてくれるはずだから


ほぼ1000羽になるはずだ。
とりあえず 今日はもう早く休もうと思って
夕食をとって すぐに布団に入った。


登校すると ついに1000羽揃った。
正確には皆一生懸命折って来たので1000羽以上に
なってしまったんだが
授業を1時間だけ 海原先生がつぶしてくれて
千羽の鶴に糸通しの時間となった。


改めて なんだかんだで
大地が皆に慕われている現実を知った。


僕がもし入院したら
皆こんなに一生懸命に鶴を折ってくれるだろうか。


ふと そんなことが頭をよぎった。


色とりどりの皆の思いの詰まった鶴が
ついに完成した。


きっと大地も喜んでくれるはずだ。


喜び勇んで それを
病院に持って行く代表者として立候補した。


誰一人異存を唱える者はいなかった。



放課後 僕と 学級委員長の里佳とロク
そして 海原先生の4人でお見舞いに行った。


他にも行きたいというメンバーはいたが
あまり大勢で病院に押しかけるのは迷惑ということで
順番にお見舞いに行くということになった。


ゲンは クラスは違うし
お見舞いのコオロギを取りに行ってくると言っていた。
また 大地によろしくとも。






病院に行く前に
花屋で里佳と海原先生が 花束と花瓶を買っていた。


ロクは家から 入院生活は退屈だろうと
漫画を何冊か持ってきていた。


僕は皆の思いのこもった鶴と手紙を大事に抱えていた。


皆どんな手紙を書いたんだろう。


僕は 大地との友情は一生続くというような
内容のことを書いた。










大地に会うのは
とにかく久しぶりなので
楽しみで仕方がなかった。


しかし 病室へ付くと
そこには変わり果てた大地の姿があった・・・。


食事もままならないのか
鼻に変なチューブが刺さっていたり
腕にも点滴が刺さっていて


げっそりとやせ細り
強いクスリのせいなのか 病気のせいなのか
頭の毛も全て抜け落ちていた。


僕の想像以上に 大地は変わり果てていた・・・。
まるで 別人だった。

よおって元気に声をかけるはずだったのに
かける言葉すら 見つからない。


こんなとき 何て声をかければいいんだ?!


いくら考えても何の言葉も出て来なかったし
こんな大地を見たくはなかったし
僕は目を背けてしまった。


他の皆も同じ状態で
ショックを隠せないようだった。


静かに目を閉じて眠っているように見えた大地が
僕達が来たことに 気づいたんだろう。


静かに大地は口を開いた。


『誰??』


病気のせいで視力も下がり
誰がそこにいるのかも分からないらしい。


僕が勇気を出して静寂を破った。


健児だよ!!
それに里佳とロクと海原先生もいるよ!!


そうか・・・。
探検行けなくてごめんな。


ごめんな ごめんな。



大地は意識がハッキリしていないのか
ずっと探検に行けなかったことを悔やんでいて
ブツブツと ごめんなを繰り返していた。


そんなもんは 僕にはもうどうでも良かった。


近寄って 大地の手を握った。
小学生にしては大きく
力強かった彼の手はやせ細って
ミイラのようになっていた。


強く握れば砕けてしまいそうな程だ。


僕は泣くつもりなんてなかったのに
涙が 涙が 止めようと思っても止まらなくて
ダメだ 泣いちゃダメだ。


大地 どうしちゃったんだよ?
病気って すぐ治る病気じゃないのか?
どうして 元気だったお前が
こんな姿になっちまってんだよ・・・。


止め処もなく涙が頬を伝っていた。


大地の口元がちょっとだけ緩んで
何だお前泣いているのか?
と 僕を笑っているように見えた。



ロクがベッドの上に鶴を飾り
里佳は花瓶に花を添えて
大地に皆からの手紙を渡した。


先生は病室の外へ 大地の母親と出て行った。


僕はただ ひたすら大地の手を握り
鼻水をダラダラ流しながら泣きじゃくっていた。


ロクと里佳も涙を堪えているようだったが
僕の背中をさすってくれていた。


こんなとき どうすればいいんだ?
僕は大地に何もしてやれない・・・。


大地が 痛いよ健児と 言った。


僕は彼の手を強く握りすぎていたようだ。


死ぬわけじゃないし
すぐに治して
また学校に行くよ
だから 大丈夫だよ 健児。


ロクも里佳もありがとうな。
クラスの皆によろしくな。


手紙もあとで ゆっくり読ませてもらうよ。


それだけ言うと
大地は 僕らと反対方向に寝返りを打った。


その背中は小刻みに震えていた。


彼も色々苦しんでいるんだろうな。



ロクが背中を向けている大地に
生徒会は副会長の俺が
会長代理で何とかやってるから
心配するなと言った。



大地はこちらを向くことなく
ありがとうといった様子で
手をスッと挨拶代わりに挙げてみせた。



じゃぁ また学校でな!!



僕はそんな言葉しかかけられなかった。


本当は色々な話をしたかったのに
基地の様子のことだって一杯話したかったのに
こんなつもりじゃなかったのに・・・。


僕達は 彼の母に
簡単に挨拶を済ませて
重い足取りで病院を後にした。





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