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<12> トボトボと家に辿り着き 玄関の引き戸を 力なく開けると 僕の嫌いな雷雲が待っていた。 ロクとゲンを探しに行くときに 行き先を一言だけでも母に伝えておくべきだった・・・。 こんな時間まで何やってやがんだと 酒臭い息で怒鳴りつけたかと思うと 問答無用で父の拳が僕の顔面に炸裂した。 目から火花が出た。 アゴの下の部分が外れたかと思った。 あまりの衝撃に 僕の体は玄関口まで吹っ飛んだ。 疲れも一緒に吹っ飛んで おかげで 目が覚めた。 騒ぎを聞きつけた母が 慌てて玄関まで出てきて 何か事情があったんでしょうと 仲裁に入ってくれたのだが 父はそんな母にすら手をあげた。 平手で母をなぎ倒したのだ。 僕が殴られるのは構わないが 母さんを殴るのは許せない。 僕は靴を履いたまま家にあがり 頭から勢いよく父に向かって突進し体当たりした。 組みかかったまではいいが それなりに大柄な父は 僕の体躯では ビクともしなかった。 ガキが生意気なことしてんじゃない!! と 再び酒臭い息を吐き掛けたかと思うと 父はそんな僕の胸座を掴んで 何度も往復ビンタをした。 口は切れ 鼻血が出て まぶたも切れた。 鉄の味で口の中が一杯になっていく。 痛みも回数が増す度に麻痺していく。 父は気が済むまで殴ると 荒々しく 僕を突き飛ばし 寝室へと消えて行った。 こんな父親は僕は要らない。 大地には お前には父さんがいていいな 大事にしろよと 言われたこともある。 母さんにも お父さんのイライラは 今だけだからと 諭されるのだが どんな理由があったって 人を簡単に傷つけていい理由にはならないはずだ。 徐々に腫れあがっていく顔を 母が優しく消毒してくれた。 母さん 僕は強くなりたい。 僕達家族は父さんにとって何? 僕はあんな父なら要らない。 もう亡くなってしまったが 祖父と祖母も一緒に暮らしていた頃の父は 事業もうまく行っていたし とても優しい父だったのに。 どうやったら あんなに人間変われるんだ? 僕は色んな父に対する疑問を母に正直にぶつけた。 母の話では 父さんは家族を守るために 今苦しんでいるのよ と言う。 そして 守るべき物があるがために 今の父さんは雁字搦めになっているのだと。 これのどこが家族を守ろうとしているんだ。 僕は許せない。 大の男が女子供に暴力を振るって 憂さ晴らししているようにしか見えない。 母さんは難しい話をしても あなたには分からないかも知れないけれど という言葉を口火に 今父の置かれている状況を 簡単に説明してくれた。 父のカメラ部品製造の事業は失敗したそうだ。 好景気の波に乗り 一時は順調だった物の 次々と出る 新製品が多く 作りすぎた中古製品の部品の在庫を処分できなくなり 会社は倒産に追い込まれたそうだ。 メーカーに泣きついたが たかが中小企業ということと 他にいくらでも代わりはいるということで 切り捨てられたらしい。 様々な負債や借金を抱え とにかく 尽くしてくれた従業員にだけは しっかり退職金が残るように対処をしているらしい。 簡単に言えば 父は家族よりも会社を取ったのだ。 それは母さんも望んだ選択だと言う。 それが僕には理解できなかった。 何せ僕は 父の会社で働く従業員の 誰一人として会ったことはないし 彼らのために 自分達家族が犠牲になるということに 理解を示すことができない。 母はお世話になった人々には恩返しをし 自分達だけの損得で生きてはいけない 皆が助け合って世の中は成り立っているのよと 僕を諭すが それでも僕には理解できなかった。 とにかく 事業がうまく行かずに 父が酒に溺れるようになったことは 薄々感づいていたし 母の説明で 父がどんな苦悩を抱えているのかは 少しは理解できた。 でも こんなことが連日連夜続くのであれば 僕は父に刃物を突き立ててもおかしくはない。 母はいずれ あなたも働くようになり 人の上に立つ立場になれば分かる日が来るわ と言った。 今の父に対する憎悪にも限界はあるが とにかく僕は 心底父を信じ愛する母の言葉を信じようと思ったし 父が早く 昔の優しかった頃のように立ち直ってくれることを願った。 そう考えると 僕が今味わっている痛みは 父の苦しみその物なのかも知れないと思った。 とにかく 色々なことが 一遍に起こりすぎて 頭の中が混乱している。 傷口に染みるので 風呂に入るのは諦めて すぐに布団に潜り込んだ。 ゲンは無事だろうか? 大地の病気は治るんだろうか? 里佳がもうすぐ引っ越してしまう。 父も出来ることなら 早く立ち直って欲しい。 色んな出来事が頭の中を駆け巡り 疲れ切っているはずなのに なかなか眠りにつけなかった。 >NEXT <BACK |