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<15> 給食の時間が終わり 昼休みになった。 皆 大地に声をかけたくとも かけられない状態で 特に男子生徒は むしろ避けるように 教室を出て 校庭へ遊びに行ってしまった。 近づきたくとも近づけない様子の 女子クラスメイト達が数名ほど教室には残っているが ほとんど 僕達2人だけになってしまった。 ロクと里佳も教室に残っていて 僕と大地を心配そうに眺めている。 大地とは僕が話をするよと 2人には合図した。 まだ 下げられていない給食が 大地の机の上には置きっぱなしになっている。 じゃぁ 僕が代わりに食ってやると 無理して 大地の給食に かぶりついた。 こうすれば 少しでも食欲がわくかも知れないと 思ったからだ。 しかし大地は そんな僕にも興味を示さずに 校舎の外にある ヒマワリ畑と田んぼを交互に眺めていた。 夏の強い日差しに向かって咲くヒマワリは やっぱり いいよなぁ と 何やら感慨深いことを言っている。 でも 俺の大好きな夏ももうすぐで おしまいだなぁ。 なぁ 健児・・・ 俺が死んだら 俺の育てたヒマワリの種を 二人で遊んだ場所にばらまいてくれよ。 ぶっ。 僕は思わず 飲みかけの牛乳を 噴出してしまった。 嫌だよ そんなの。 僕はずっと大地と一緒にいたいし そんな弱気なこと言うなよ。 大地らしくないよ。 うん。 でも もう俺助からない気はしてるんだ。 病気の進行も早いし 医者も助からないだろうって お袋と話しているのを 聞いちまったのさ・・・。 僕はそれを聞いて また 何て答えていいか分からなくなってしまった。 大地がいない人生なんて 考えられない。 基地だって出来上がったんだし そこで2人で住もうって決めたじゃないか。 ダメだよ そんな約束できないよ。 そんな弱気な僕を尻目に大地は言った。 あとな 健児に渡したい物があんだ。 胸元をゴソゴソやった後 何かを取り出すと そっと 僕の手に握らせた。 相変わらず 骨ばった 強く握れば砕けてしまいそうな弱々しい手だ。 自分の手を開くと そこには一つのタグが握らされていた。 これは 大地がずっと肌身離さず大事に 身につけていたペンダントじゃないか。 こんな大事な物もらえないよ。 僕が大事に持っている爺さんの形見の 懐中時計と同じくらい大切な物に違いない。 いいんだ 健児に貰って欲しいんだ。 俺の大切なお守りだったんだ。 肺癌で若くして死んでしまった 炭鉱夫だった 俺の親父が身につけていたタグなんだよ。 俺が赤ん坊のときに親父が死んで 九州から お袋の実家に近いこの土地に引っ越してきた。 お袋は親父が死んでから スッカリ駄目な女になっちまった。 でもよ 健児にだけは話すけどさ 中学卒業したら とっとと 働いて お袋を食わせてやろうって これでも 考えてたんだぜ。 あんなダメ女でも 俺にとっては たった1人の家族だから・・・。 知っているんだ。 生活費を稼ぐために 自分の体を見知らぬ男に売っていたことを。 俺はそれが憎くて悔しくて仕方なかったよ。 でも逆に俺がいなければ 俺との生活を維持するために そんなことをする必要だってなかったはずなんだ。 俺が早く1人立ちして お袋を食わせてやれば もう そんなことさせやしないさ。 最初はお袋も真面目に 普通の仕事をしていたんだよ。 でも 給料は安いし 女性の昇進ってのもないらしいんだ。 ほとんどパートで 正社員にもなれないみたいだし 働き口も少ない。 それで いつしか 手っ取り早く自分の体を売るようになってしまった。 あれでも 見た目はまだまだ若いし 俺がいうのも変だけど ちゃんとすりゃ お袋も綺麗な女の部類に入ると思う。 勿論 寂しかったのもあるんだろう。 お袋が何度か親父の仏壇の前で 泣いているのを見たことがあるよ。 親父はきっと お袋にとってはかけがえのない男だったんだろうな。 お袋の全てだったのかも知れない。 だから そんな弱々しい母を見るのも 俺は辛くて堪らなかった。 だから 家にいるのも嫌になってしまったよ。 お袋もどちらかと言えば そんな俺を心配することもあったんだろうけど 時には俺の存在を疎ましく思い 忘れようとしていたのかも知れない。 だから 母子関係は疎遠になっていってしまった。 家に一緒にいても ほとんど口を利かなかったしな。 でも 尊敬する親父の選んだ女なんだもの 俺が生涯かけて守らなければダメだろ? 貰ったタグを良く見ると 西岡善次郎と彫られている。 きっと 大地の父親の名前なんだろう。 親父は誠実で働き者だったって聞いてるよ。 ギャンブルもやらないし 暴力も振るうような男じゃなかったらしい。 九州の爺さんと婆さんが昔言ってた。 だから 俺もそうなりたいって ずっと そこにはもう存在しない親父の背中を追いかけて 生きてきたつもりだよ。 でも もう俺にお守りは必要ない。 今日学校に来たのも 実は 調子がいいからではないんだ。 そこで 大地は息が詰まったようになり 苦しそうに たった一言を やっとの思いで吐き出した。 医者の許しが出たのは きっと もう手遅れだからなんだ・・・。 病気の進行が凄まじく早いのは 俺自身が良く分かっている。 僕は呆然となり 恐怖で膝が震えた。 信じられないし 信じたくない・・・。 親友の死など考えたこともないし 味わったこともないんだから。 大地は続けて語り始めた。 こ、こんな病気になっちまってよ・・・ も、もう お、お袋さえも守ってやれない・・・。 俺はもうダメだ・・・。 突然 大地が咽ぶように泣き出した。 大粒の涙をこぼし 大きく肩を揺らしている。 僕にはそんな彼の背中を ゆっくり さすってやることくらいしかできなかった。 親父はこんな俺を許してくれるだろうか・・・。 なぁ 健児・・・こんな情けない男に育ってしまった俺を 親父は許してくれるだろうか・・・。 親父に会わせる顔がないよ・・・。 俺は親父の温もりを知らない。 でも きっと生きていたら 俺のやんちゃぶりを見て 愛情一杯の ゲンコツの一つでもくれただろうか・・・。 僕に同意を求めるように見つめて来る。 親父のいない寂しさってのは 俺にもあったんだよ。 だから お袋の気を引こうと 悪戯ばかりしたこともあったよ。 でも お袋はもう疲れきっていて 俺にはほとんど無干渉だった・・・・。 擦れた男ばかりが 家に出入りするようになり お袋は完全に腐ってた。 むしろ俺を邪魔者扱いすら するようになっていったよ。 泣きじゃくる大地は 喋るのが とても苦しそうだ。 親父の死 それで変わってしまった母親に対し 一体どれ程の想いを抱えて 彼は生きて来たんだろう。 僕は家族のことで それ程悩んだことなんてない。 今でこそ 父親の暴力で 少し悩んではいるが 彼の抱えている苦しみに比べたら 全く比較の対象にすらならない。 大地は抱えて苦しんでいたものを 全部吐露するように 再び 喋り始めた。 だから 健児 俺はお前のこと お前の家族を 正直 羨ましいって思うことが何度もあったよ。 運動会とかで活躍する姿を 親父に見せてやりたかった。 僕の頬にも自然と熱いものが流れていた。 涙が止まらない どうしてこんなに悲しいんだろう。 どうして こんなにもどかしいんだろう。 親友がこんなに病気で苦しんでいるのに 僕は平然と毎日を過ごしていて 何一つ 彼に対して してあげることができない・・・。 涙を拭いながら 勇気を振り絞って大地に言った。 大地 そんなのお前らしくないよ! 胸を張れよ!! お前は太陽に向かって咲く ヒマワリみたいな男じゃないか。 親父さんも今までのお前を きっと天国から見ているよ。 何もコソコソする必要もないし 最後まで 最後の瞬間まで 正々堂々と 胸張って生きろよ。 そして 最後まで諦めずに 病気と闘え 負けちゃダメだ!! 母さんを守るんだろ? そうじゃなければ お前の父さんは お前を許さないと思うよ。 大地はうつむき加減になり そうだ そうだよなぁ・・・と 鼻水をすすりながら答えた。 横で聞いていた ロクや里佳 クラスメイト達も 皆泣いていたが 皆 声を揃えて そうだ そうだよ と言った。 堰を切ったように クラスメイト達が大地の席の周りに集まってきて 皆 負けるな大地 頑張れ大地と 声を荒げて言った。 大地も 号泣して 肩を揺らしながらも クラスメイト達に 俺 頑張るよ!! と 誓いを立てた。 そんな大地の手に 僕は 爺さんからもらった大事な懐中時計を握らせた。 お守りの交換だよ 大地。 爺さんは僕に言ったよ。 時は 誰でも皆 平等に流れる。 この世に平等があるならば たったそれだけ。 1日は誰でも24時間しかない。 その時間をどう使おうが個人の勝手だが その限られた時間を精一杯生きろと言ったよ。 ゼンマイ式だから たまに巻かないと 止まってしまうけれど 僕達の過ごした時間は 次に生きる人達に継承されていくんだ。 だから 大地よ 皆のために 精一杯生きろよ。 絶対に 死んじゃダメだぜ。 大地は 泣き腫らした真っ赤な目だけれど 強い眼光を持つ誓いの目を 僕にして見せた。 午後に彼は 皆より早く下校することになったが 皆 校門まで見送って 力強く声援を送りながら 手を振った。 彼はこちらを振り向かず 力強い足取りで去っていったが 多くの友人が涙を流していたし 海原先生も泣いていた。 まだ 咲き残っているヒマワリ達も 彼を見送っているようだった。 僕は手の平の中にある 大地からもらったタグを 何とも言えない気持ちで 力強く握り締めていた。 >NEXT <BACK |