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<11> 玄関前の軒先に誰かが立っている。 またか・・・。 疲れているんだから 今日はもう勘弁して欲しい。 僕は溜息をついて その場に立ち止まった。 すると あちらから こちらへ向かって来る。 大丈夫なの? 外灯の薄暗い明かりの中 里佳が僕に問いかける。 今日は色々あって疲れたよ。 『そっか・・・。』 と 一言だけ言って里佳は下へ俯いてしまった。 『登校日に言っていたお願いの話なんだけど 健児 疲れているみたいだから また今度にするね。』 『今日はゆっくり休んでね。』 あー そう言えば 里佳はそんなことを 言っていたなぁ。 『いいよ 今聞くよ。 ここじゃ 何だし公園にでも行こう。』 もう面倒ついでだ 今日のうちに全て出来ることは 済ませてしまいたい気分になった。 2人の家から一番近い公園へ移動した。 そして 2人で公園のブランコに腰掛ける。 何かのTVで見た 恋愛ドラマのシチュエーションみたいだなと思った。 しばらくの沈黙を破って 昔はこの公園で 泥んこになるまで里佳とも良く遊んだなぁと 僕が呟くと 里佳も そうだねと 素っ気無い返事をした。 その直後 里佳が何かの踏ん切りがついたように喋りだした。 『今日は色々あって疲れているだろうし こんなタイミングで 話すべきことじゃないんだけれど 健児には 早くに知っておいて欲しくてね ごめんね。』 『実はね 私 今月で引っ越すことになってしまったの。』 プラプラ揺すっていたブランコを止めて 僕は一瞬 目がまん丸になってキョトンとしてしまった。 え?ちょっと待ってくれ 何かの悪い冗談なんだよな? 不安や恐怖にも似た感情が全身を貫いた。 大切な人達が 次から次へどこか遠くへ去って行ってしまうような錯覚と どうしようもない程の孤独感が僕を漆黒の闇の底へと突き落とす。 僕は本当に一人ぼっちになってしまう・・・。 今日は一体 どんな日なんだ? 頭の中が整理できずに 疲れ、憤り、焦燥感で 水風船の様にパンパンに膨れ上がった 僕の心と体が 今にも破裂しそうな勢いだ。 『本気で言ってんの?』 と僕は間髪入れずに切り返した。 里佳は 半ベソをかきながら静かに頷いた。 『お父さんの転勤の都合で 富山に引っ越すことになったの。』 『大地君のこともあったし 海原先生には 私のことは クラスの皆には内緒にしておいてって お願いしたのよ。』 真面目な里佳らしいや。 『それで お願いってのは何なの?』 『私 ずっとこの土地で育ったでしょ? だから 引越しって始めてだし 友達が出来るか不安なのよ。』 『何だよ 里佳らしくないな。 君なら どこに行ったって友達はできるよ。』 『しかし 昔はひどいお転婆だったのに 何でまた突然 真面目になったんだい?』 『ははは 私が真面目に? 本当はね 大地や健児が羨ましいの。 私 男に生まれたかったのかも。』 『女の子のグループって 嫉妬ややっかみが多すぎて 私疲れちゃうの。』 『父や母に ちゃんと女の子らしくしなさいって いつも言われているから そうしているだけよ。』 『だから 本当の私の素顔を知っているのは 昔から一緒だった健児と大地だけなのよ。』 『健児も小さいときは いつもピーピー泣いていたのに 大地の影響かしら、逞しくなったよね。』 ニコっと 久しぶりに好意的な笑顔で こちらの顔色を伺っている。 『ちきしょー 余計なお世話だよ。 今日の病院でだって見てたろ 僕はどうせ泣き虫だよ。』 『ううん 泣きたいときには 泣けばいいんだと 思う。 大地も嬉しかったんじゃないかな?』 『まぁもう その話はいいよ。 それで お願いってのはなんだい?』 『文通相手になってくれないかな?』 と 照れ臭そうに里佳は言った。 『嫌だよ そんな女っぽいこと。 女友達に頼めばいいじゃんかよ。』 『私は健児がいいって言ってるの。』 『うーん 何で僕なんだよ。 文章書くの嫌いなんだよ 作文とか嫌いだし。 字も汚いしさ ゲンほど酷くはないけどさ。』 『作文と手紙は違うでしょ。』 そんなやり取りをしているうちに いつしか里佳のペースにはめられて 結局 文通とかいうのを する約束をしてしまった。 ところで 文通って何だ? 女の子がコソコソ 授業中に回し合う手紙のことだと思っていたが 里佳の説明だと ちゃんとした手紙のやり取りだと言う。 彼女は 今学期終了までは この学校にいたかったみたいだが もう今月末に引っ越す予定は変更はできないそうだ。 終いには 私だけ こっちに残って 健児と一緒に住もうかな などと 言い出した。 僕の家庭は父の問題で 決してうまく行っているわけではないが 家族は離れちゃいけないんだと思う。 だから 里佳も家族と一緒に 富山に行った方がいいと思う。 僕もちょっとは寂しいけれど それが絶対一番いいと信じている。 そこで僕は里佳に一つの提案をした。 『じゃぁ こうしよう。』 『木の上の秘密基地にポストを作るから そこから皆で手紙を書くよ。』 里佳の表情がパっと明るくなって 引越しの不安が吹っ飛んだのか 楽しみにしているねと 精一杯 心のこもった声で答えた。 そのあと 里佳はブランコから降りて おもむろに僕に近づき ありがとうと 耳元で呟くと 僕のほっぺに チューをした。 僕は 相手が里佳とはいえ そんなことを女の子にされたことがないので どう反応していいか分からなかった。 ドキドキワクワクするわけでも ドギマギするわけでもなく 何か凄く自然な感覚の中にいた。 ずっと一緒に育って来たからだろうか。 里佳のキスをすんなり受け入れることができた。 僕も特別に意識することはあまりないけれど 里佳のことが好きなのは確かだ。 彼女がそこにいるのが当たり前だったし 大地と一緒で どちらが姉で弟 もしくは兄で妹ということはないが 兄妹もしくは姉弟みたいに思って生きてきた。 どちらかと言うと 彼女に対しては 面倒だなと思うことの方が多いけれど 後々考えると 僕は大切に思われているんだなと 実感することが多々あった。 里佳も照れ臭かったのか 健児のこと 大好きだよ と言って 気軽に手を振って その後は振り向くこともなく スキップにも似た軽い足取りで 公園から出ていった。 僕は疲れてはいたんだが 何だか 今日は色々あり過ぎて 頭の中が整理できずに ボーっと ブランコに揺られながら 星空を眺めていた。 気が紛れるような パーっと明るい流れ星でも流れないかなと そのまま空を眺めていたが そんなに都合良く 流れ星を確認することはできなかった。 公園の明かりのせいで ほとんどの星々は見えず かろうじて あれがオリオン座かなと思える程度の 味気ない星空だった。 なんだか家に帰る気力すら失われていたが 涼しさが少し肌寒さに感じた頃 僕は公園を後にした。 >NEXT <BACK |