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ハックルベリー・フェロウズ(Huckleberry Fellows)






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翌朝 カーテンを開けると
気持ちの良い空が見えた。


まだ少し薄暗いが 今日は晴れそうだ。
探検日和だな。


集合場所の神社に行くと
まだ誰の姿も見えない。


どうやら僕が一番乗りのようだ。


一番乗りは気分がいい。
朝の森林浴といった感じで
大きく深呼吸をして 軽く伸びをする。

準備運動のつもりで
屈伸や伸脚をする。


昔一度怪我をして
運動会に出られなかったことがあり
とても悔しい思いをしたので
それ以来 何かをする前には
必ず 準備運動をする癖が自然と身についた。


夏の朝の少しだけ冷たい空気を胸一杯に吸い込む。
徐々に周囲も明るさを増し 今日の天気は
確実に晴れになりそうだ。


散歩がてらに境内を一周する。


すると 狛犬の後ろで ロクが静かに漫画を読んでいた。


何だ 僕は一番乗りじゃなかったのか。
ちょっとガッカリだ。


おはよう と言うと ロクは
こちらを見ずに やる気なさそうに手をフニャッと挙げた。


かなり眠そうで
何度も目をこすっている。


ゲンは?とたずねると
こちらに顔を向けずに本殿の方を指差した。


漫画に夢中で他のことには興味がないようだ。


ズボンのチャックを閉めながら歩いているゲンが見えた。
股間の位置をごちゃごちゃいじりながら こちらへ歩いて来る。


『うぃーっす。』


相変わらず 面白い双子だ。


弟の元助は相変わらず声がでかい。
腕っ節も大地と同じくらい強い。


昔はクラスが一緒になったこともあるが
今彼は隣の6年2組だ。


とても 頭が悪く 凄い短気
おまけに近所では悪童として有名だ。


兄の麓助は 逆に青瓢箪で
勤勉家で およそ他人に余り興味がない。
でも時折 喋ると凄い事を言うほど博識だし
クラスの男子学級委員長でもある。


また 大地の生徒会長に次いで
彼は副会長でもある。




本当に似ていない兄弟だ。
なんでも ニランセイソーセージというそうだ。



大地が
なんだお前らソーセージかよと 鼻で笑うと
ゲンが急に怒り出して 大地に殴りかかったこともある。




大地の姿がまだ見えないので
ゲンが イライラし出した。


あいつが言い出したのに
何で 来ないんだよ!!


と 賽銭箱を何度も蹴りだした。



ロクが ぼそっと
お前罰が当たるぞ と言った。



うるせー こんなもん
ただの貯金箱だろがと ゲンが言い返す。


確かにゲンは信仰心みたいなものがまるでない。
だから 何度か罰が当たって痛い目を見たほうがいいと思う。


周りが注意しても ちっとも聞こうともしない。


墓場でかくれんぼをして 邪魔だと言って
墓石を蹴り倒したこともあるし


ザリガニの尻尾にタコ糸をつけて賽銭箱に垂らして
賽銭釣りをしていたり


電話している人がいる電話ボックスに煙玉を投げ込んだり
ラブホテルにロケット花火を打ち込んだり
所謂 悪童と言われる類で


近所でも 常に問題児扱いされ
大人達もほとほと手を焼いている。


兄貴のロクですら
あいつはもう地獄行きが決まっていると言っているんだから
きっとそうなんだろう。


でも ロクの話だと
そんなゲンですら 彼の父親には
適わないそうで 家では大人しいんだそうだ。


彼らの父親は大工の棟梁で
部下からは 親方とか呼ばれている。




賽銭箱を蹴り飽きたゲンが
手水舎の水を バシャバシャかいたり
今度は 狛犬の上に片足で立ち始めた。


ロクは 漫画に夢中で
まるで 弟のゲンに興味がない。


僕も ゲンを調子に乗せるとろくなことがないので
彼の行動を制止することも煽ることもしなかった。


頼むから大地よ
早く来てくれ。


ゲンの一人暴走は続いていたが
僕もロクも彼を放っておいた。


でも そんなゲンもなぜか女の子には暴力を振るわないし
弱い者イジメもしない。


むしろ 低学年の生徒が
他校の生徒に絡まれたりすると
我慢ならねぇと言って 飛び出して行くほうだ。


だから 低学年の生徒の中には
彼を神童扱いし ヒーローだと信奉し
彼の悪行の数々を真似る生徒もいて
学校の先生達は 困り果てている。


ただし 同学年には乱暴者で通っているので
皆あまり関係を持ちたがらないし 怖がって近寄らない。


普通だったら 大人や先生に注意されれば
それが悪いことだったら 自分の行動を直すんだが


彼は全く我が道を行くタイプで
誰一人として眼中にないように見える。


一度 彼の頭の中を覗いてみたいくらいだ。
兄のロクは ゲンの行動は兄弟の俺ですら 理解不能だよ
と言っているくらいだから
常人の僕には一生理解できないんだろうなぁ。





結局 約束の時間になっても 大地は来なかった。
あいつが約束の時間を破るはずはない。


せいぜい少し遅れて来るくらいか
もしくは何かしら連絡をくれるはずだ。



あと 20〜30分待とうと主張したが
約1名 全く言うことを聞こうとしないし
もう1人も 漫画を読みっぱなしで興味なし。


大地も場所は分かるし
あとから来るだろうということになり
結局 先発することにした。


ここから10分ほど入った山の中腹に
例の防空壕はある。


時々 振り返るが
大地が追ってくる様子はない。


先頭を歩くのは勿論ゲン。
口笛を吹いてご機嫌で
なにやら棒切れを狂ったように振るっている。


片っ端から生えている笹や
野草 木の幹を ひっぱたいている。


怪我をしそうなので近寄りたくない。


その次を 器用に漫画を読みながら
歩いているロク。
よく 躓いて転ばないよなぁ。

学校の裏庭にある
本を読みながら歩いている
二宮金次郎の銅像みたいな奴だ。





そして最後に僕だ。


なんだか この双子を相手にしていると
2人ともマイペース過ぎて
それに合わせようとすればするほど
僕の調子が狂って 疲弊しきってしまうよ。


面白い兄弟には違いないんだが
大人達が困る理由も分かる気がする。










気づけば僕らはもう防空壕の前にいた。


オレンジ色のバリケードと
立ち入り禁止の看板を乗り越えると
暗くて薄気味悪い入り口があった。


入り口は高さは50cmくらいしかなく横に長い。


ちょっと懐中電灯で照らしてみると
中に入れば 中腰くらいにはなれそうなスペースが確認できた。


ゲンがモゾモゾと匍匐前進するように
中に入ろうとするので
僕はそれを制止して 大地を待つように説得した。


ロクは漫画を読み終わったのか
やっと 口を開いた。


ゲン 大人しくしろよ
親方に言いつけるぞ。


この言葉は彼にとって
一番脅威なんだろうか。


うるせぇなという表情を浮かべたあと
おもむろにポケットから取り出した
チュッパチャップスを3本程剥いて
一遍に舐めだした。


『喉に詰まって死んでも知らんぞ。』
とロクが言うと

『兄者は いつも親方に言いつけると言う
俺はそれが気に食わんぞ。』


彼らは父親のことを
親方と呼ぶので 未だに僕はそれに慣れない。


何でも親方の意向に寄ると
兄のロクには 有名な大学に進んで建築の設計士になって欲しいし
弟のゲンには家業を継いで
立派な大工になって欲しいそうな。


2人とも そんな親心は
どうでもいいといった感じではあるが・・・。


何度か 親方を見たことがあるけれど
恰幅はいいし 声はでかいし
あの黒部組の黒という一文字紋の入った法被が
何とも威圧的だし 凄い迫力で
挨拶するのにも声が詰まってしまった。



『坊主 腹から声出せや!!』



と ニコニコしながら
ごつい手で頭を撫でるというより
グイグイ押し付けられたのを今でも覚えている。


それに比べたら 僕の父なんて
かわいいもんなのかも知れない。



ロクが工事現場用のヘルメットを
自分のリュックから人数分出した。


ほれ 皆でかぶろう。


ヘルメットを着けて
3人で大地を待った。


誰かが山の斜面を登って来る様子もない。
本当にどうしてしまったのだろうか。



だんだん 心配になってきた。
そんな不安に満ちた僕の顔の前を
煙たい白いものが横切った。


横を見ると いつの間にか
ゲンがタバコに火をつけている。


ロクが その煙でゴホゴホ咳き込んで
ゲンの頭をヘルメットの上から棒切れで叩いた。


その瞬間 ゲンがくわえタバコで
ロクに馬乗りになって首を絞めた。


『兄者だと思って調子に乗るな!!』


頼むから兄弟喧嘩はやめてくれと
止めに入る。


その時 ゲンの振り上げた拳が
僕の口に当たり
口の中に鉄の味が広がった。


父親に殴られたときの味だ・・・。


突然僕も切れてしまって
気づいたらゲンのお腹を蹴り上げていた。


普段大人しい僕がそんなことをしたので
ロクは驚いていたし


ゲンは腹を抱えて痛そうに
転げ回っていた。


『ご、ごめん』


自然と僕の口から
その言葉が出ていた。



ゲンは パンパンと服を叩きながら立ち上がると
分かったよ お前の一発は効いたぜ
と 気味の悪い笑みを浮かべて
大地を待つことにしようぜと 僕に言った。



しかし 大地は
その後も現れなかった。



結局待ちくたびれた3人の
意見は一致した。


大地なしでの防空壕探検の決行だ。


ゲンから順番に中に入る
入り口は狭いが 中は中腰くらいにはなれるようだ。


僕は持ってきたロープを自分の腰に巻いて
近くのバリケードに結びつけた。


3人分のロープはないけれど
こうしておけば 中で迷っても
戻って来れるだろう。


さらに奥へ入ると
水瓶のようなものや
なにかの陶器の破片のようなものが
散らばっている。


確かに ここで誰かが一時的に避難し
生活した後があった。


中の空気は
ジトーっとした
肌に絡みつく様なひんやり感だ。


一番大きい防空壕と聞いていた割には
それほど 奥行きはなく
大したことはなかった。


涼しいのに何かベタつく。
汗なのか湿気なのかよく分からない。


懐中電灯で照らされた壁が
何やら波打っているように見える。


あれ 目の錯覚かなぁ。


ロクとゲンに質問してみる。


ロクとゲンもそう見えると言う。
なんだろうと 近づいてみる。


それが何なのか分かったとき


僕は一瞬 鳥肌が立ち
壁に触れようとした手を
慌てて 引っ込めた。

同時に


うぉおおおおおお!!
と 悲鳴にも似た雄叫びを
あげていた。




わさわさ蠢いたそれは 壁一面に密集した
コオロギの触覚であった。


懐中電灯を上に向ければ
天井にも ビッシリとコオロギが・・・。


僕達はこれだけの数の
コオロギを見たことがないので
それは衝撃であり戦慄であった。


『撤退せよ、撤退せよ!!』


と 余り喋らないロクが青ざめた顔で叫んでいる。




皆 我先にと頭をぶつけながら
防空壕から這い出そうとした。


身の安全のためにと腰に巻いたロープが災いし
3人に同時に絡まり 思うように身動きができなくなった。


僕は 口が あわわわわと
半開きになっていて
涎を二度くらい垂らしていた。


入り口付近には
人に見られたくない情けない
慌てふためいた3人の姿がそこにあった。


とりあえず 外へ全員無事に出たが
呼吸が整うまで 誰も喋れなかった。



『すっげーな コオロギの宝庫だぜ ここ!!』


ゲンが目をキラキラと輝かせて言う。



でもあれだけの数を見たのは初めてで
一匹でも こちらが手を出せば
全部が我々を襲ってくるんじゃないかと
そんな気にもなった。



ここはコオロギの聖地であって
そこを我々は侵したわけで
何か罰が当たるんじゃないかとも思った。


ゲンは一杯取って帰ろうと言ったが
ロクと僕はなんだか気が引けて
そんな気にならなかった。



結局 大地は来ないし
僕たちの防空壕探検は終わった。



帰りに3人で
大地の家に寄ったが
誰もいなくて 留守だった。


裏口も閉まっていて
明かりもついていないし
人気が全くない。


今までアイツは約束を
破ったことなんてない。


一体何があったんだろう?


せめて 今日の防空壕探検の
報告くらいは してあげたかったなぁ。


あんなに凄いコオロギの群れは
見たことがないしね。





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