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<20> その日の夕方 3人で大地の所へ行き 里佳が引っ越したことを伝えた。 大地は驚いた様子もなく 少し首を項垂れて 窓の外に目をやった。 秋の夕日が 枯れ落ちて行く木の葉を 美しく照らし出していた。 めずらしくベッドの脇には 大地の母親が付き添っていた。 ロクが基地で撮った記念写真が出来上がったので 額に入れて 大地に手渡した。 今朝方 写真屋にフィルムを出してきたので 現像が間に合わず 里佳に写真を渡すことは出来なかったが 郵送すればいいさ とロクは言った。 大地はしばらく写真を眺め ベッド横の机に置こうとしたが もう額すら 持ち上げる力がないらしく カシャンと額は床に落ちた。 皆 大地の衰弱振りに ただただ呆然としていた。 大地は元気がなく 声もかすれていた。 視力も相当落ちて メガネをかけてはいるが それでも かろうじて 近くにいなければ 僕らが認識できないようだ。 全身に前にも増して 何かチューブのような物を 入れられていて 僕は元気だった頃の大地を 思い出し ただ1人俯いてしまった。 もう 自分で小便や糞に立つことすらできねぇんだ 情けねえったりゃ ありゃしねぇよ と 吐き捨てるように かすれ声で大地は呟いた。 ゲンが大地の耳元で いいか大地 負けるんじゃねぇぞ 負けるんじゃねぇぞ と 呪文のように唱えている。 もう闘病生活で疲れ切っている大地を 目の前にして 僕はもう 僕はもう・・・ いいんじゃないか・・・と 思い始めていた。 大地は助からない。 死んでしまうんだ。 認めたくないけれど ドンドン悪化していく大地を見て 口にこそ出しはしないが もう苦しんでいる大地を これ以上見たくはなかった。 首を大きく左右に振り そんな弱気な考えでどうすると 考え直す。 でもダメなんだ。 心の準備をしておかないと 大地がもし 死んでしまったときに 僕はショックで立ち直れないだろう。 とにかく精一杯生きて 精一杯病気と闘っている大地を 目に焼きつけるんだ。 そして それを一生涯忘れないことが 大地を生かすことになるんじゃないだろうか。 とにかく その時が来るのが怖くて 僕はそっと大地の手を握った。 その手を自分の頬に当てる。 小学校6年生にしては 大きく男らしい手だったのに それはもう ミイラのように かさかさで 干からびていた。 何で大地が こんなにいい奴が こんな目に遭うんだ・・・。 こんなに苦しんで こんなにボロボロになるまで闘っているのに ちっとも病気が良くならない。 病気が憎い。 僕はこの病気が憎い。 いつの間にか僕はまた泣いていた。 大地 頼むよ・・ 生きてくれ・・・ お前のいない人生なんて 僕には考えられないよ。 ずっと一緒に育ったじゃないか・・・。 もう声にならない声で 僕は泣きじゃくっていた。 力ない大地の手が 僕の涙を拭っていた。 かすれ声で大地は言った。 俺は約束通り 最後の瞬間まで負けない。 だから もしものときは 皆は 俺の分まで 精一杯生きてくれ。 俺がしたかったこと やりたかったこと 行きたかった場所 一杯あるけれど 皆が代わりにやり遂げるんだ。 俺はきっともうすぐ 親父のところへ行くことになる。 もう分かるんだ。 親父が呼んでいるから・・・。 横で大地の母が泣いている。 ロクがそっと ハンカチを差し出すと ありがとうと すすり泣きながら答えた。 これ以上 この病室に居続けるのも もう僕には堪らなく辛くて仕方がなかったので 大地と母親に会釈をして 帰ることにした。 大地は 虚ろな目をして 力なくフニャっと手を一回あげて それを 僕達への挨拶とした。 お見舞いの帰りに 3人で神社に寄って 大地の回復を願った。 ゲンが神社のガラガラ鐘を鳴らす縄に ぶら下がり ターザンごっこを始め そのまま 賽銭箱に飛び乗り 箱上にある 格子の木枠で 靴の泥を落とし始めたのを見て 僕とロクは 呆れ果てた。 神様に願掛けに来ているのに コイツは一体何を考えて 何をやっているんだろうと・・・。 神社を 公園にあるジャングルジムか何かと 勘違いしているんじゃなかろうか・・・。 この域まで来ると 罰当たりとかそういうレベルじゃなく 彼自身が神か悪魔そのもののような気がした。 あらゆる社会の常識やルールから 逸脱し過ぎていて ときとして嫌悪感すら抱くこともあるんだが 何故かそれを許してしまう。 そういう意味ではゲンってのは 得な人間なのかも知れない。 皆が皆 ゲンだから仕方ないって 思ってしまうのだから。 賽銭箱から飛び降りると ゲンは おーし 神様にもお祈りしたし 大地の病気はこれで 治るぞー と 叫ぶと 家の方向に向かって ギューンと 元気良く走り出した。 取り残された 僕とロクは なんだか 嵐が去って行った気分だった。 >NEXT <BACK |