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<22> とりあえず 病院へ向かうために 川原で双子と合流することになっていた。 自転車を漕ぐのだが たびたび溢れ出す涙で前が見えず 電柱や塀にぶつかりそうになりながらも どうにか走った。 双子と合流し 3人で必死に自転車を漕いだ。 病院前の駐輪場に自転車を投げ出し 受付で少し手間取ったが 事情を説明し 僕達は霊安室へ走った。 廊下は走らない!! と 途中看護婦の婦長さんのような人に 注意をされたが そんなことはお構いなしに 僕達は走った。 霊安室に 駆けつけて 重く感じるその扉を開けると ろうそくの明かりの中 静かに台に横たわる 白い布をかぶせられた人間がいた。 台は大人用なので ピッタリと台に収まっていないそれは 人ではなく まるで何かのマネキンか人形のようだった。 布からはみ出した 白い手と 足の先だけが わずかに確認できたが あとは 布に覆われていた。 これが大地であることを 確認したくはなかった。 大地の脇で すすり泣く母親の姿と その後ろに 長く伸びるろうそくの明かりの影が とても不気味だった。 普通は家族じゃない 僕達が霊安室に来ることなど あり得ないのだが 大地の母が病院にお願いしてくれたようで 家族同然の僕らに連絡をくれたのだった。 大地の母に対し一番真摯に接していたのは ロクだったから ロクの所に一番最初に連絡が来たようだ。 一番大地と親しく接していたのは 勿論 僕だったのだが 僕自身 大地の母に対し いいイメージがなかったし それをあちらも察していて そんな柵(しがらみ)ゆえに 一番話し易いロクの所へ連絡をしたんだろうなぁ。 ゲンは 初めて霊安室へ入ったので なぜか 興奮気味だ。 ろうそくを 軽く吹いて 吐息でなびく 消えるか消えないかの火を楽しんでいる。 大地が死んだということすら こいつには ショックじゃないし 関係ないのか? 僕は頭に来て ゲン いい加減にしろ!! と 叫んだ。 ゲンはしばらく肩を小刻みに震わせていた。 こちらを振り向くと 突然 大声を張り上げて泣き出した。 健児 俺だって 悲しいんだよ 大地が死んだなんて 俺は認めねぇ!! 絶対に認めねぇからなと言うと 霊安室を飛び出した。 そうか 大地の死を信じたくないし それを認めたくないから 悪ふざけすることで 彼なりに感情を抑えていたんだな・・・。 ロクは霊安室の入り口に立ち尽くしたまんま 大地の母に この度はご愁傷様ですと言ったきり 部屋の中に入って来ようとしない。 僕は 台の前に立つと 意を決して 顔の上の 薄っぺらな布をめくった。 静かに瞳を閉じて 微動だにしない 真っ白な顔がそこにあった。 今にも寝息がしてきそうな 静かな寝顔だった。 ロクも駆け寄ってきて それが大地だと確認すると 僕の肩を抱き 大粒の涙をこぼした。 僕らはどうしようもない悲しみに支配され その場に泣き崩れた。 台にもたれる形で 腰を落としたので 少し台が揺れて 大地の手がだらりと 僕の顔付近に 垂れ下がってきた。 それが顔に当たったとき そのひんやりとした冷たさに 僕は驚愕した。 僕はこの骨ばった手を 何度も何度も握ったし 見て来ただけに 大地の死を確信するには 十分過ぎる程だった。 そして その手に懐かしさを覚え 少しでも温まらないか また 強く握ってやることで 彼が息を吹き返すんじゃないかと 涙で濡れた手で強く握った。 その手の上にかぶせるように ロクも手を握ってきた。 大地よ 生き返ってくれと願って 2人でしばらく 血の通わない冷たい手を 僕らの温かい手で握り続けた。 願いも虚しく 時間は過ぎて行き 僕らは泣き疲れた。 大地よ 最後の最後まで 良く頑張ったな。 本当に頑張ったよ。 誰一人として お前の孤独な闘いを 助けてやることはできなかった。 申し訳ない大地 済まない大地。 僕達を許してくれ・・・。 何かに懇願するように まるで許しを請うように 再び僕は冷たい大地の手を握り続けた。 健児にロクよ 情けねぇな ピーピー泣いてんじゃねぇよと 大地の薄紫色の唇が 少しだけ への字に歪んだように見えた。 大地の母に通夜と葬儀の日時を聞き 僕らは少しでもお手伝いすることにした。 廊下へ出ると そこには 体育座りで 疲れ果てたゲンの姿があった。 彼も 目と鼻を随分こすったのか 真っ赤になっていた。 ロクと2人で ゲンを引き起こすと 3人とも 重い足取りで病院を後にした。 静かな病院に僕達の歩く足音だけが こだましていた。 >NEXT <BACK |